【外池酒造店】トップソムリエから絶賛の評価の秘訣は井戸のお水と綺麗なお酒造り

春と秋に陶器市が開かれる焼き物の町、栃木県益子町には外池酒造があります。

観光酒造として多くの方に訪問されている外池酒造。お酒造りに使っている水は、透明度の高い軟水だそうです。

最近では、フランス・パリの「Kura Master2022」でトップソムリエが選ぶ日本酒では、「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」が最高賞の「プレジデント賞」に選出されています。

今回は日本国内はもとより、海外でも評価が高まっている外池酒造店の外池茂樹社長に話をうかがいました。

外池酒造株式会社

外池 茂樹さん

社長

栃木県・益子町に分家として酒蔵を創設

外池酒造店は1937年(昭和12年)に創業
(出典:外池酒造店HP)

──外池酒造店の歴史から教えてください。

外池 茂樹さん(以下、外池社長) 私の祖父である外池逸五郎は、栃木県宇都宮市の造り酒屋「外池荘五郎商店」の5男坊でした。

益子焼(ましこやき)※で有名な栃木県益子町で、後継ぎがいない酒蔵(さかぐら)※を紹介していただき、1937年(昭和12年)に分家という形で「外池酒造店」を創業したのです。

※酒蔵・・・お酒を製造し、貯めておくための蔵のことを指します。
※益子焼・・・益子町周辺を産地とする陶器。

当初の銘柄は「八千代鶴」。しばらくして現在の「燦爛」(さんらん)に変わりました。

日本酒以外にもおコメを原料とした焼酎、リキュール、どぶろくなどさまざまな商品を開発し、製造・販売しております。

日本酒コスメも開発し、オリジナルのブランド「蔵元美人」も全国展開しております。

2012年からは、新ブランド「望bo:」の製造を始め、好評です。

海外輸出にも力を入れ、現在15か国(台湾、香港、韓国、シンガポール、ベトナム、マレーシア、イギリス、オーストリア、フランス、イタリア、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ)へ出荷しております。

井戸水は透明度が高い軟水

毎年、井戸をきれいにし、水神様をお祭りする儀式を行う
(出典:外池酒造店Twitter)

──日本酒におけるお水の役割はいかがでしょうか。

外池社長 栃木県は日光水系の鬼怒川、那須連山から流れている那珂川、巴波川(うずまがわ)と3つの水系があります。

外池酒造店は、鬼怒川の伏流水(ふくりゅうすい)※を醸造に使っています。この水質は軟水であり、軟らかいお酒ができるのです。

※伏流水・・・水がしみ込みやすい土地を川が流れると、水が地中にもぐりこんで流れます。 この水のことを伏流水といいます。

軟水の仕込みは発酵しにくいのですが、それは技術でカバー。辛口に造っても、あまり辛さが生じないお酒に仕上がります。

外池酒造店には井戸が3本あり、これは従来の2本の井戸のほかにもう1本掘りました。しかし従来の井戸のお水の方がお酒造りには適しており、実に透明度が高い。

井戸は直径2mありますが、上から下を覗くと、井戸の底が透けて見えるほど美しいです。ろ過などの特別な加工をしなくても、使えるほどの水質となっています。

ですから、日本酒にとってお水は非常に重要という認識です。詳しく申し上げれば、洗う時、蒸す時、仕込むなどの工程でおコメを加工する際には、お水が最も大切な要素といえます。

しかし、外池酒造店は加工せずとも良質なお水が得られるため、恵まれている酒蔵です。いいお水が取れるところに、いい酒蔵があるのです。

お酒造りは経験によることが多く、お水の作用もすべてが解明されているわけではありません。

しかし、うま味を引き出す役割を持つなど、お酒造りに大きな役割を果たしていることは間違いないのです。

毎年、お酒造りの前に井戸を綺麗にし、水神さまをお祭りする儀式を行い、お酒造りを続けております。

また、田植えの時のお水も大きな要素。清らかなお水で作ったおコメは、お酒造りにとっても大切なのです。

代表銘柄「燦爛」に込められた思いとは

(出典:外池酒造店HP)

──次に、代表銘柄である「燦爛」(さんらん)の魅力については。

外池社長 「燦爛」には、昔よく使われた形容詞で光輝くという意味があります。

中国語では、人生が華々しくうまくいっている状況の時にこの形容詞を使うのです。

こうした背景もあり、私の父は「燦爛」を商標としました。私たちとしては、お客さまに光輝く人生を送り、そうしたひとときを楽しんで欲しいということで、「燦爛」というブランドを大切にしています。

味は地元で一番多く飲まれる辛口から、純米酒、吟醸酒とオールラウンドにお客さまが楽しまれるお酒を提供しています。

いずれもすっきりして飲み飽きず、一杯飲んだらもう一杯飲みたくなるようなお酒なのです。私たちは、綺麗なお酒造りを目指し、雑味の少ないお酒となっています。

大吟醸や吟醸のような華やかなお酒では、香り豊かな酵母を使用し、うま味や香りを楽しめるようなお酒です。

新時代に向け新たなお酒造りを展開

新ブランド「望bo:」を立ち上げ、2012年から販売
(出典:外池酒造店HP)

──「燦爛」以外にも新たなブランドも発売されました。この意図はどのようなことでしょうか。

外池社長 「燦爛」というブランドを大切にしつつ、次の時代に向けていろんなお酒造りを展開していくことを決めました。

これからの時代にあったお酒ということで、新ブランド「望bo:」を立ち上げ、製造を2012年から開始しました。

望を象形文字で書くと、丘の上につま先でまっすぐ立って月を眺める人の姿を表しています。

これからの時代にお客さまに喜ばれ、酒蔵として挑戦を続けることを考え、「望bo:」というブランドをつくりました。

このブランドの特徴は、純米でお水を足さない原酒です。「望bo:」の中には、純米、特別純米、純米吟醸、純米大吟醸を取りそろえています。

通常、外池酒造店が使用する酒米(さかまい)※については、地元のおコメが中心です。しかし、「望bo:」は挑戦するというコンセプトに従い、全国のいろいろな酒米を使っています。

※酒米・・・日本酒の原料として使われるために作られたお米です。

たとえば北海道産の「彗星」、秋田県産の「酒こまち」、栃木県産の「美山錦」ほか「五百万石」などいくつもの酒米を使って、それぞれのおコメのうま味と特徴を引き出しているのです。

また、さまざまな酵母を使って、その特徴を上手に引き出した、お酒造りにチャレンジしています。

──もう一つのブランドは社名になっている「外池」はどのようなお考えで立ち上げられましたか。

外池社長 「外池」は、フラッグシップとしての純米大吟醸の最高級品を限定で発売している時に使用するブランドです。口の中に広がる深い味わいは至福のひとときを演出します。

南部杜氏と下野杜氏の両資格を持つ杜氏が活躍

お酒造りで活躍する小野誠氏は、
南部杜氏と下野杜氏の資格保持者
(出典:外池酒造店HP)
下野杜氏・南部杜氏とは?

まず杜氏とは、酒造りの最高責任者で、杜氏の下で働く蔵人(くらびと)を管理・監督します。
杜氏集団の中でも越後杜氏、南部杜氏、丹波杜氏の3つは「三大杜氏」と呼ばれており、全国の酒蔵で活躍されています。杜氏の流派は、全国で30あるとも言われています。
ここで登場した「下野杜氏」は、下野の国(栃木県)の日本酒の素晴らしさを末永く後世に伝えていきたい…という想いから立ち上がった杜氏の流派の一つです。

──そして、下野杜氏と南部杜氏※の両方の資格を持つ小野誠さんが酒造責任者として奮闘されておられますが。

外池社長 2015年からは、伝統的な酒造りの技術を学び、下野杜氏と南部杜氏の資格を持つ杜氏・小野誠氏が先頭に立って全力で酒造りを行っております。

小野氏は、一般社団法人南部杜氏協会でさまざまな研修を受講し、次に実務の経験などを踏まえて、南部杜氏の資格を取得しました。

南部杜氏以外にも、越後杜氏や丹波杜氏などの杜氏集団があります。その中でも南部杜氏協会は毎年夏に、杜氏や蔵人(くらびと)※を集め、勉強会、お酒造り技術の伝承、情報交換を積極的に行っている団体です。

※蔵人・・・杜氏と呼ばれる日本酒造りの最高責任者のもと、日本酒造りに従事する人を指します。

ほかにもコンテストを行うなど、南部流のお酒造りの普及や伝承に注力している協会といえるのです。

「外池AUTHENTIC 大吟醸 袋吊り雫酒」は、南部杜氏協会からの優等賞を受賞

先日、南部杜氏協会でコンテストが開催されました。小野氏が造ったお酒は、吟醸の部・純米の部でいずれも優等賞を受賞しました。

受賞したお酒の銘柄は、「外池AUTHENTIC 袋吊り雫酒 大吟醸」「外池AUTHENTIC 袋吊り雫酒 純米大吟醸」です。

次に、栃木県の下野杜氏の認証制度を説明します。もう30~40年前のことです。

杜氏は雪深い南部杜氏の資格を持つ、岩手県の方、あるいは越後杜氏の資格を持つ新潟県の方が季節労働者として、冬場だけ酒蔵に来ておりました。

しかし、工場が地方にも建設されると、出稼ぎという季節労働者がいなくなったのです。ですから、一時的にお酒造りの技術者の後継者が不在になったのです。

そこで栃木県内の酒蔵が杜氏を社員として雇い、養成するプログラムを作成し、お酒造り技術者の担い手を確保するようにつとめました。

栃木県酒造組合は、実技試験・利き酒試験・筆記試験・各種勉強会での講師など、栃木県産業技術センターの課す厳しいカリキュラム・試験を経て、下野杜氏に認定します。

栃木のお酒のブランド力を向上し、お酒造りを確立する意味で、下野杜氏の認証制度を制定し、その技術向上を図ってきました。

下野杜氏は県内のお酒造りの活動や後進育成などにもつとめています。

実際、県内の酒蔵は杜氏についてはほぼ社員化しております。一部、季節労働者として働いている方はおりますが高齢化しており、若い蔵人のアドバイザー的な役割が多くなっています。

杜氏をはじめとする技術者の社員化進む

──杜氏や蔵人などを社員化したことにより、酒蔵にはどのような変化がありましたか。

外池 大きく分けて2つあります。夏場には新商品開発を検討する余裕もできました。

次に季節労働者は単年度雇用が多く、複数の酒蔵で渡り鳥のように仕事をする杜氏もおりました。杜氏の中には、お酒造りの技術を酒蔵の社員には、あまり教えない傾向もあったのです。

昔は秘伝の技術を守ってはいたのですが、社員杜氏になると雇用も安定します。その結果、お酒造りの技術がオープンになりました。

また、この情報化社会により、ネット上で公開し、勉強会で情報交換するなどの事例も多くなるなど、お酒造りをみなでより良いものにしようという意思が深まっています。

根底に「掃除に始まり、掃除に終わる」との精神

──お酒造りについてのこだわりについてはどのようなお考えですか。

外池社長 それは掃除に始まり、掃除に終わることです。

目に見えない微生物を扱いますから、細心の注意を払い、綺麗なお酒造りを行うことが大切です。

82歳で他界した前杜氏が生前、蔵人に対して洗濯機でお酒を絞る袋を洗う指示を出した時のことです。

蔵人は、酒袋の清掃が終わったことを報告しました。前杜氏は、洗濯機の水を汲んで蔵人に対して、「この水を飲んでみろ」と迫りました。蔵人は断ったのです。

酒袋を洗濯機で洗う時は、洗剤を一切使用せず、お湯とお水で洗うというのが酒蔵のやり方です。そのため、薬品が混入しているわけではありません。

ですから、洗濯機に入れたお水も綺麗で飲めるくらいでなければならない。

前杜氏は、「お酒を絞る袋を洗っているのに、そのお水を飲めないというのはどういうことだ」と怒り、蔵人に対して、「もう一度やり直しだ」と繰り返し指示しました。

前杜氏は綺麗なお酒造りをするにあたり、今の逸話を残されていました。

本来、洗濯機のお水を飲む必要もなく、毎回強要したわけではありません。しかし前杜氏は、細心の注意を払って酒袋を洗わなくてはならないことを蔵人に教えたのです。

こうした一つずつ清潔な環境を積み上げた結果、綺麗なお酒が出来上がりました。

海外のコンクールで相次いで受賞

外池酒造が第6回Kura Master日本酒コンクールの
プレジデント賞を受賞。(左から2番目が外池社長)

──近年、外国でも高い評価を得て、さまざまな賞を受賞していますね。

外池社長 フランス・パリのKura Master運営委員会は、フランスを代表するソムリエが審査を行うコンクリ―ルを開催しています。

2022日本酒・本格焼酎・泡盛コンクールでは5部門1,110銘柄から、外池酒造店の「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」が最高賞の「プレジデント賞」に選出されました。

ほかにも、毎年イギリスで開催される「International Wine Challenge2023」は、世界で最も影響力をもち、2007年より「SAKE部門」を新設、国内外で大変注目されているコンテストです。

ここでも「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」が、金賞受賞をはじめ全部で8つのお酒が受賞しました。

ほかアメリカ、ミラノ、スペインやシンガポールのコンテストでもいい成績を収めています。

一連のコンテストを通じて日本酒が大変注目されていることをあらためて感じました。

また、世界のソムリエも日本酒への存在価値が高まり、知識として知っていかなければならないとの認識になっています。

レストランは、お客さまからシャンパンと日本酒を飲みたいとのオーダーを受けるケースもあります。

その際、ソムリエが日本酒の内容を紹介できる知識を持つ必要があります。

それは2013年12月に、「和食」が、ユネスコの人類の無形文化遺産に登録されたことが大きい。和食とともに日本酒の認知度が上がってきているのです。

日本酒と世界の料理のペアリングに注目

Kura Master2022日本酒コンクール プレジデント賞
「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」

──各コンクールでは、とりわけ「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」が高い評価を得ており、トップの賞を受賞されています。

外池社長 ソムリエのトップの方が厳正な審査をされ、トップの賞に「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」を選んでいただいたことは、光栄なことです。

お酒の特徴を明確にとらえて、的確なコメントをいただいたことは本当にうれしく思います。

フランスのチーズ大御所の方も、このお酒は「フランスのあの種類のチーズととてもよくあいます」とご紹介されるなど、和食だけではなくフランス料理とともに、日本酒は楽しめます。

──まさに日本酒は世界のさまざまな料理にマッチングできるほど価値が高まっていますね。

外池社長 日本酒はただ酔うだけではなく、味わって楽しむものと変化しつつあります。

その意味でもうま味とお酒は非常にマッチするなど、料理とお酒のペアリングの楽しみ方が、世界でより浸透しています。

そこで一種類のお酒だけではなく、飲み比べセットが喜ばれるようになっています。

今、外池酒造店として注力していることがあります。栃木県産のいちごと純米大吟醸のフルーティーな香りと味が上手にあわさって、すごくよくマッチングするのです。

フルーツと純米大吟醸の双方を組み合わせ、両方の味が引き立つマリアージュ※を楽しむことができます。

※マリアージュ・・・お酒と料理を組み合わせ、新たなおいしさを引き出すこと。

酒蔵見学でいちごの季節の時には、いちごと大吟醸のマリアージュを飲んで食べていただいて、楽しんでもらっています。

それが地産地消につながっていくものと思います。

化粧分野にも参入で世界に発売

──化粧品「蔵元美人」も発売されていますが。

外池社長 お酒や麴には、知られていない効能効果が多くあります。

昔から芸子さんは、化粧代わりにお酒を使い、また杜氏の手がとてもきれいなことから、お酒は美容効果を発揮していると言われておりました。

私どもではそれを実証するためにお酒のハンドクリームや化粧水などを製造・販売しています。

観光酒蔵として多くのお客さまをお迎えするにあたり、お酒を飲まれないお客さまも楽しまれることが大切です。

現在、化粧品は外資系のホテルなどにも使われ、海外にもお買い上げいただいているところもあります。

株式会社外池酒造店

栃木県芳賀郡益子町大字塙333番地1
TEL:0285-72-0001 
FAX:0278-52-2314

この記事の執筆者

長井 雄一朗

建設業界30年間勤務後、セミリタイアで退職し、個人事業主として独立。 フリーライターとして建設・経済・働き方改革などについて執筆し、 現在インタビューライターで活動中。

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