大阪の南部、泉佐野周辺で作られたタオルを総称して「泉州タオル」と言います。泉佐野市は日本のタオル発祥の地です。
かつては日本の各地でタオルが製造されていました。しかし、現在国内で販売されている国産タオルの割合は全体の2割ほど。そのうち1割は今治タオル、もう1割はこの泉州タオルです。
今回はそんな泉州タオルブランドを提唱している大阪タオル工業組合の宮内純さんにお話を伺いました。
大阪タオル工業組合
宮内 純 さん
織機開発から始まった純国産の泉州タオルとは
ーー泉州タオルの歴史を教えてください。
宮内純さん(以下、宮内さん)大阪の南部は江戸時代から綿作りが盛んで、綿花を糸にするための紡績工場も数多くありました。昔はそこで作られた糸で綿布、手ぬぐいを製造していました。
1887年(明治20年)、木綿織物業の1人である里井圓治郎が海外から入ってきたタオルを見て研究開発し、タオルを織る機械を開発しました。これが日本にタオルが広まることになったきっかけです。
泉佐野の地では綿布屋からタオル屋に業種替えが行われ、一気にタオルの織機が普及していきました。タオル製造は分業制になっていて、1社だけで作業が完結するものではありません。
綿花を糸にする工程から始まり、タオルを織る工程、長いタオルを切って端を仕上げる工程、最後に洗う工程、それぞれ異なる業者が担っています。最低でも3社、多い場合は5~6社を経由して作られます。
その分業制もあって、泉州タオル産地のメーカーは最大で約700社、タオル関連業者を含めると1000社以上のメーカーがタオル作りに従事していました。
ーー大阪タオル工業組合とはどういった団体ですか?
宮内さん 織機の開発によって明治20年から始まったタオル製造ですが、国によって製造が制限されていた時代がありました。
当時は織機の販売・購入が登録制になっており、織機を無許可で販売・購入することはできない決まりになっていました。当組合は元々、その織機を管理するための組合として発足した団体です。
現在の組合員数は75社と、最大時の10分の1ほどの規模になってきています。
織機の登録制が廃止になり、管理が不要になってからは組合員の福利厚生や資材の共同購入、保険の一部などを担っています。最近は主にPRが主な仕事です。
日々の生活に寄り添う、後晒し製法で作られたタオル
ーー泉州タオルの特徴を教えてください。
宮内さん 泉州タオル最大の特徴は「後晒し(あとざらし)」製造であることです。聞きなれない言葉かもしれませんが、「晒し(さらし)」とは糸や生地の不純物を取り除いて綺麗にする工程のことです。
生糸には綿本来の油分や汚れなどの不純物がついています。また、織る時の強度を上げるため、糸が切れるのを予防するために糊(のり)がつけてあります。これを商品として綺麗な状態で出荷するためには、晒しの工程が必要です。
泉州タオルは織った“後”に“晒す”ので「後晒し」製法と呼ばれています。一方で今治タオルに代表される「先晒し」製法のタオルは生糸の状態で晒しを行い、染色後に糊付けをしてからタオルを織り上げます。
どちらの製法にも一長一短があります。
先晒し製法は色糸で織ることになるので、色柄の華やかなタオルを作ることが可能です。主に百貨店などでギフト需要として多く販売されています。
デメリットは織上がった後、糊を完全に落とすことが難しい為、吸水性にやや問題が残る点です。
これに対して泉州タオルは織上がった後に晒を行い、染色をする後晒製法で作られている為、綿の油分、糊、不純物がきれいに取り除かれており、非常に吸水性の高いタオルをつくることが出来ます。
デメリットは晒しの後に染色する為、比較的に単調なデザインになってしまうところです。
最近はギフト系の商品も増加傾向にありますが、以前はお風呂に使う浴用タオルや企業名が入ったノベルティタオルなどの業務用のタオルを主に製造していました。
現代の泉州タオルは日々の生活に寄り添うタオルを提唱しています。家庭での使用、洗濯、乾燥、収納に至るまで、使いやすいサイズとボリューム感、デザインなどを意識して作られています。
和泉山脈地下水を100%使用し、丁寧にろ過して排水する
ーーブランドコンセプトが「水とともに生きる」こととされていますが、泉州タオルと水はどのように関係しているのですか?
宮内さん お話してきたように、タオルを製造するためには大量の水を使用します。漂白や染色の時も水を使用しますが、特に晒しの工程は多くの水が必要です。
泉州タオルの製造では和泉山脈という大きな山脈の地下水を100%使用しています。現代まで枯れることなくこの地下水が湧き出てきていることが、泉州タオルの原点です。
ーー水を大切にするために取り組んでいるのはどのようなことですか?
宮内さん 水がなければタオルは作れません。ただし、後晒し製法だと、洗浄のための水の使用は1度で済みます。
先晒し製法に比べ、製造工程全体の水の使用量が少ないのです。乾燥工程も含めると、エネルギーの使用量も少なくて済むのでSDGsの視点も持っています。
また、水は使用すると当然汚れますよね。そこで、排水の工程に重きを置いています。通常でしたら、晒しをする工場で化学薬品等で汚れを中和させて排水する場合もあるかと思います。
しかし、泉州タオルの産地ではバクテリアを利用しています。バクテリアの分解作用によって、不純物の浄化を行っています。
もちろん、薬品を使用するよりも時間がかかりますが、設備投資も手間もかけて丁寧に水をろ過洗浄します。
大阪湾は瀬戸内海につながっている海です。日本の外洋に面しているところよりも排水基準が厳しくなっています。その基準の値をはるかに下回る数値にしてから排水しています。
「泉州タオル」としてリブランディング!歴史を未来につなぐ
ーー泉州タオルのブランドを展開させていく上で、何か課題になっていることはありますか?
宮内さん 日本の製造業全体にも言えることですが、高齢化と後継者不足が課題に挙げられます。現在、泉州タオルの歴史の中で組合さんの世代は大体2代目から3代目に変わる過渡期です。
後継者がいる企業は代替わりできますが、いない場合は他所に引き継ぐか廃業される形になります。
技術を持った企業が技術の継承がなされないまま廃業されるのが課題ですね。
そして、平成に入ってきてからの輸入品の台頭も脅威になってきています。一般的な低価格帯は輸入品に代わってしまいました。
現在国内の輸入浸透率は80%ほどです。残る1割は今治タオル、もう1割が泉州タオルです。
ーーそれらの課題はどのように解決されていきますか?
宮内さん 現在タオル製造に関わっている組合員さんたちにはそれぞれ強みがあります。
例えばホテルで使うタオルをメインで織っている企業のタオルは強度があったりボリュームがあったり、洗濯薬品に強かったりします。
織り屋さんの工夫や織機の改造など企業独自の技術があるんですね。そういった日々の努力が泉州タオルの存続を支えています。
私たちができることとして取り組んでいるのはPR事業です。その各社の強みをもっとPRして販売につなげていきます。
泉州タオルのリブランディングにも取り組んでいます。名前を知ってもらうというより、産地の歴史や、もの作りへの思い、どういう人たちがどうやって作っているのか、タオル製造の背景を全てをユーザーに知ってもらいたいです。
そして触ってもらって、使ってもらって、ファンになってもらう課程をトータルでPRしていきます。
ーー泉州タオルを展開させていくための今後の展望を教えてください。
宮内さん 「水とともに生きる 泉州タオル」と題し「泉州タオル」のリブランディングに取り組み始めたのは2020年からです。2025年の大阪万博に何らかの形で出店したいというのが一つの目標です。
それまでに泉州タオルの知名度を上げていかなければなりません。PR活動の一環として、全国各地の百貨店などの催事に参加し、展示会も行っていきます。
また、2023年2月に開催し、好評で終了した温泉州プロジェクトは2024年も開催予定です。温泉旅館とコラボして泉州タオルを使用してもらえる機会を提供します。
今治タオルの知名度と比べると泉州タオルの認知度は低いかもしれません。しかし、国内シェア・製造量に大差があるわけでもありません。製法や仕上がりに違いはありますが、どちらも高品質な国産のタオルです。
将来、国内を代表するタオル産地として泉州タオルの認知が広がったら、世界に打って出ていけるような、グローバルな日本産タオルを作っていきたいですね。
大阪タオル工業組合
〒598-0006 大阪府泉佐野市市場西1丁目8番8号(泉州タオル館1F)
TEL:072-464-4611
FAX:072-464-9419