群馬県・嬬恋村(つまごいむら)は周囲に高さ2000mをこえる複数の山々に囲まれ、温泉文化が発展している村です。
中でも「万座温泉」「鹿沢温泉」などが有名。近くにスキー場があることから、冬には温泉とスキーの両方を楽しめます。
さらには、あのジョン・レノン夫妻が訪れた「鬼押出し園」から見る絶景は多くの方に感動を与えてきたことでしょう。
今回は、(一社)嬬恋村観光協会の事務局長である三ツ野 元貴さんにお話しをうかがいました。
一般社団法人 嬬恋村観光協会
担当者 三ツ野 元貴さん
事務局長
多様な温泉に恵まれる嬬恋村にある「万座温泉」
──嬬恋村は多様な温泉に恵まれた地域、とうかがっています。
三ツ野 元貴さん(以下、三ツ野さん) 嬬恋村は、豊富な源泉・多様な泉質と評価され、異なる性質をもった多くの温泉が湧く村として知られています。
温泉地も複数あるので、一つずつ説明します。
一番有名なのは「万座温泉」。日本一の硫黄濃度と言われ、戦国時代に突入した西暦1500年あたりに入湯の記録があるとされる温泉で、群馬五大温泉の一つです。
「万(よろず)の神が座する温泉」という神聖な名前を持ち、昔から親しまれてきました。
硫黄濃度が高く、殺菌作用・血行促進作用の効果があるといわれており、湯治(とうじ)※のお客様で賑わっていました。
※湯治・・・温泉地に長く滞在して、病気を治したり、体調を整えることを指す。
群馬県は、新たなリフレッシュ方法の「リトリート」※を特に推しています。万座温泉は、リトリートの地として力を入れていきたいですね。
※リトリート・・・住み慣れた土地を離れ、仕事や人間関係で疲れた心や体を、数日間に渡り別の土地で過ごす。観光目的の旅行と異なり、日常を忘れてリフレッシュすることが狙い。群馬県では、3泊4日という余裕のある時間をしっかりとり、自分と向き合い、心と体の変化を感じられるような過ごし方を提案している。
三ツ野さん 原田知世さん主演の『私をスキーに連れてって』の舞台が、この万座温泉スキー場でした。質の良いパウダースノー(サラサラとした粉状の雪)が楽しめ、冬場は特に温泉とスキー場という最高のパッケージエリアです。
三ツ野さん 万座温泉は白く濁った温泉、各宿泊施設では露天風呂も用意。日中の空や夜の星空も美しいです。初夏では新緑も深く、秋には紅葉の広がりを見せ、真白な冬は一面銀世界と四季折々に楽しみがある温泉地でもあるんです。
鹿沢温泉や嬬恋バラギ温泉も好評
──万座温泉以外の温泉を教えてください。
三ツ野さん 次は群馬九大温泉の一つの「鹿沢温泉」を紹介します。
万座温泉よりも古く、1000年以上前から開湯したとも言われています。温泉名は、鹿が傷を温泉で癒しているところを発見したことが由来です。
三ツ野さん 万座温泉は白根山系の温泉であるのに対して、鹿沢温泉は吾妻川をはさんだ浅間山系の温泉で、ミネラルが豊富な炭酸泉です。
その分、お肌に張りや潤いを与えるような美肌の温泉地と言われ、国民保養温泉地※に指定されています。
※国民保養温泉地・・・温泉の公共的利用増進のため、温泉利用の効果が十分期待され、かつ、健全な保養地として活用される温泉地を「温泉法」に基づき、環境大臣が指定するもの。1954年から指定が始まった。2022年10月では、全国で79箇所が指定されている。(引用元:環境省公式サイト)
嬬恋村には、13の温泉地があります。効能が異なる温泉地に浸ることにより、相乗効果が高いといわれているエリアです。
三ツ野さん ほかにも単純温泉である「嬬恋バラギ温泉」も非常におすすめです。こちらは四阿山(あずまやさん)から湧き出る温泉です。
万座温泉と鹿沢温泉、嬬恋バラギ温泉に浸ると、日本百名山※のうち三つの山から湧き出る温泉に入れることも魅力の一つです。
※日本百名山・・・小説家の深田久弥氏が多くの山を踏破した本人の経験から、「品格・歴史・個性」を兼ね備え、原則として標高1500m以上の山という基準を設け、選定した。
三ツ野さん 嬬恋バラギ温泉に入浴すると、古い角質がツルりと落ち、「美肌の湯」とも言われ評判の温泉地です。
スキー場「パルコール嬬恋リゾート」には、サウナ付きの温泉大浴場「四阿山の湯」があります。ここは地域や高齢者向けに温泉券を配布しているので、地域の方にも愛用されています。
スキー場のふもとに無印良品のキャンプ場があるので、お帰りの際に利用しているお客様もいます。
話は変わりますが、アスクル㈱はオフィス・現場の通販として有名で、その中でも高級感が高い飲料水「LOHACO Water(ロハコウォーター)」が好評です。これは四阿山を採水地とし、JALやANAの機内食に添えられるお水です。
魅力満載!山々のアクティビティ体験
──温泉地だけでも嬬恋村は十分楽しめますね。次に観光地としてはいかがでしょうか。
三ツ野さん 嬬恋村は、山のアクティビティ観光も楽しめます。日本百名山に選ばれている山が3つあり、他にもバラエティーに富んだ山々に囲まれています。
嬬恋村は群馬県の一番西側に位置し、真東以外はすべて山です。初心者から上級者まで楽しめる山が魅力的です。
「ぐんま県境稜線トレイル」※は、みなかみ町の谷川岳から嬬恋まで歩くロングトレイルを楽しめます。嬬恋村の移住者の中には、いろんな山に登っている人もいます。
※ぐんま県境稜線トレイル・・・群馬県と新潟県・長野県の県境に位置する稜線は100km に渡ってつながっており、国内最長の稜線ロングトレイルを楽しむことができる。ロングトレイルとは、登山道やハイキング道、林道、古道などをつなぎ合わせた距離の長い自然歩道。宿泊しながら、土地の自然や文化、地域の人とのふれあいなどを行う。
あのジョン・レノン夫妻も訪れた「鬼押出し園」
──嬬恋村にとって山は大きな観光資源ですね。
三ツ野さん 1783年(天明3年)の浅間山の噴火によって生まれた、圧巻の溶岩アート群「鬼押出し園」は、あのジョン・レノン夫妻も訪れました。
浅間山が目の前にある迫力と、溶岩でできた地形の面白さ。さらに遠くでは、谷川連峰やアルプスのふもとまで山々を望めます。眼下には国立公園の大自然が広がっているのです。
この絶景を車で走れば見ることができるのは観光地の大きな魅力と言えます。
おもちゃ王国と併設されたホテルも
──嬬恋村のエリアも広いのですがどのような宿泊施設がありますか。
三ツ野さん 嬬恋村は、「万座温泉」「バラギ高原」「村中心JR駅周辺」「鹿沢温泉」「浅間高原」「北軽井沢」の各エリアには、温泉浴場も備えたホテルや旅館もあります。
変わった視点では、「軽井沢おもちゃ王国」があり、ここには温泉付きの宿泊施設「ホテルグリーンプラザ軽井沢」も併設されています。ここは「ウエルカムベビー」※にも認定される快適な部屋で、キッズや赤ちゃんをお迎えいたします。
※ウエルカムベビー・・・施設、設備・備品、食事、接客サービスなどの認定基準を満たし、赤ちゃん連れでも安心して快適に過ごせる宿泊施設を言う。
また、室内プールなどおしゃれなラウンジを備えた、リゾートホテルが充実しているホテル軽井沢1130もございます。
さらにコロナ禍で一時期自粛されていたと思うのですが、団体旅行、卒業旅行、2~3世帯での家族旅行向けの貸別荘やコテージも豊富にある地域ですね。
タレントのIKKO(イッコー)さんが嬬恋村に別荘を所有していた関係で、芸能界でもIKKOさんが差し入れしていたという浅間ミートのホルモンが人気です。
そこで貸別荘やコテージでは、ホルモンのバーベキューを楽しむ旅行形態が多いです。
今年の夏は特に暑く長かったのですが、嬬恋村では涼しい環境、そして冬には大雪原が広がり、おしゃれな宿泊施設では暖炉があり、ワンちゃんと一緒に楽しめるお宿が増えています。
お客様の中には「暖炉の前で暖まるワンちゃんを撮りたい」「大雪原で走り回るワンちゃんの姿を撮影したい」という方も多く、そのニーズに応えた宿泊施設も多くなっています。
嬬恋村だけでも大小約200の宿泊施設があるのですが、バラエティーに富んでいる点が大きな特徴です。
これから力を入れたいのが、働き方も多様化していく中での「ワーケーション」※「多拠点生活」※の場としての嬬恋村です。
※ワーケーション・・・「WORK(仕事)」と「VACATION(休暇)」を組み合わせた造語。休暇先で仕事(リモートワーク)を行うことを指す。リモートワークでは、オフィス以外の自宅やカフェなどを利用して仕事をするが、ワーケーションは旅行先や帰省先で仕事をするという違いがある。
※多拠点生活・・・2か所以上の拠点に住まいを持ち、それらを行き来するライフスタイルのこと。例えば、平日は仕事に便利な都心に住み、週末は田舎で趣味を満喫するような暮らしのことを指す。
ワーケーションの場としての嬬恋村
──ワーケーションという働き方でさまざまなアイディアが生まれるものと期待しているのですが、嬬恋村として何か取組みをされているのでしょうか。
三ツ野さん 地方創生の取組みの中で、移住支援のほか、ワーケーションを受け入れています。嬬恋村が主導してテレワークの拠点をつくっています。
敷地面積72万6000㎡の「浅間ハイランドパーク」別荘地内にある、ボウリング場を2021年にリノベーションしました。軽井沢と草津の中心に位置し、都会からのアクセスの良さとリゾートを兼ね備えたワーケーション施設「Asama Valley」が誕生しました。
誰でも使える貸しオフィスやシェアオフィスを別荘地の中央地に設定。村としては、ボウリング場に併設されたオフィススペースを整備したのです。ボウリングを楽しめる一方、会議もできるスペースとなっています。
また、万座温泉でもスキー場のレストランの一角を使用し、ワーケーションに適した施設としました。スキーやゲレンデで楽しんでいるお子さんを見ながら仕事もできます。
グリーンシーズンは、涼しい場所であり温泉を楽しみながら、仕事も快適に進むことでしょう。ネット環境はWi-Fiを完備し、スムーズに仕事ができるような施設としました。
通年で温泉、冬にはスキーを楽しむことで、多様な発想が生まれ業務の効率化もさらにアップすることが期待されます。
企業が地域課題解決テーマに嬬恋村でインターンシップ
──今、各地方自治体は企業の呼び込みに熱心ですがそのあたりはいかがですか。
三ツ野さん 嬬恋村は2023年に東京の企業を呼び込む試みとして、企業のインターンシップの場として選んで頂き、企業が学生とともに地域課題を解決する事業を行っています。
社員と学生がともに議論をしながらコミュニケーションを深める事例が少しずつ増えています。
地ビールも百貨店や高級スーパーで販売
──さて、話はグルメに移ります。嬬恋村と言えばキャベツが有名ですね。
三ツ野さん キャベツは6月下旬から10月下旬までが出荷時期です。この時期になると、どの飲食店でもキャベツの千切りが並びます。
嬬恋村はキャベツに醤油をかけるんです。甘いキャベツに醤油をかけて、さらに甘みが際立ちます。
今嬬恋村は、地ビール「嬬恋高原ビール」に力を入れ、麦・ホップや工場も含めてすべて嬬恋村で完結するようにしました。
百貨店「高島屋」や高級スーパーマーケット「成城石井」に販売されるほど高品質と評価が高いです。
お酒のつながりでいえば、輸入ワインの専門店が開設されました。東京・白金で販売会を開催するような輸入会社が嬬恋村を拠点に営業しています。
料理も野菜が豊富な地域です。イタリア料理の出店や、隣が長野県であるため嬬恋村も同様に美味しいお蕎麦が頂けます。
群馬県民の食文化として意外なのは、「海なし県」にもかかわらず、マグロ、お寿司、ウナギなどの魚料理も取り揃えています。海なし県だからこそ、本物の味を求めるのかもしれません。
また、群馬県は「かつ丼」文化が独自に発展し、村の中で「かつ丼」の食べ歩きを楽しまれる方もいます。
さらには山菜やキノコも信州と同様に嬬恋村では多く採れている場所として有名です。
農家の奥さんが独自ブランドを立ち上げ
──嬬恋村はグルメの場所としてもいいですね。それでは特産品・お土産品はどのようなものがありますか。
三ツ野さん 嬬恋村の農家に嫁いだ奥様方が、ものづくりを通じて村を元気にするために「妻の手しごと」というブランドを立ち上げました。
日本一の生産量を誇る嬬恋村のキャベツを活用し、手間と時間を惜しまず製造した「嬬恋キャベツ酢」を販売しています。
嬬恋キャベツ酢の味は、キャベツ本来の香りや風味を感じることができる「プレーン」と紫キャベツを活用しポリフェノールが含まれた「パープル」です。
この他にも、キャベツ酢から生まれた地サイダーにも注目です。その名も「愛妻ダー」。夫婦の恋心があざやかに泡として弾けます。
美しい村の名前は日本武尊と弟橘姫の伝説に由来
──嬬恋村は愛妻家の聖地と呼ばれています。また、これほど美しい地名はそうありません。改めて由来についてうかがいます。
三ツ野さん 九州を征伐した後、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)※は東征中に嵐に見舞われ、海の神の怒りを鎮めるために妻・弟橘姫(オトタチバナヒメ)※が荒れ狂う海に身を投じました。
※日本武尊・・・第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたる。熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄。「鳥居峠」で嘆いた「吾妻はや」という言葉が元になり、この地方を「東(あずま)」と呼ぶようになったという地名起源説話が残っている。
※弟橘姫・・・『日本書紀』によれば日本武尊の妃。関東地方では弟橘姫に由来した神社・伝説が多数ある。
三ツ野さん その東征の帰路、嬬恋村の鳥居峠に立つと、眼下に雲海が広がっていたのです。
その雲海と弟橘姫が海に身を投げた時の海と照らし合わせて、亡き妻を偲び「吾嬬者耶」(あずまはや)「ああ、わが妻よ、恋しい」と嘆かれたという伝説にちなみ、名づけました。
嬬恋村は吾妻郡に属していますが、これも日本武尊と弟橘姫伝説に由来しています。
そこで嬬恋村で別荘をお持ちの方々が名前の由来が面白いということで、「日本愛妻家協会」を嬬恋村で立ち上げ、「妻という最も身近な赤の他人を大切にする人が増えると、世界はもう少し豊かで平和になるのかもしれない」という理念で活動されています。
三ツ野さん 日本愛妻家協会は1月31日を「愛妻の日」と制定しており、本観光協会は、この団体とコラボレーション企画し、宿泊プランをつくっています。
嬬恋村も「愛妻の丘」をつくり、ここでキャベツ畑に向かって妻に対して愛を叫ぶイベント通称「キャベチュー」を毎年9月に開催し、今年で18年目を迎えました。
本観光協会としても、奥さんとの時間をつくる旅というプロモーションを展開しています。
──今、首都圏からの移住者を増やす事業も進めていますね。
三ツ野さん 「地域おこし協力隊」「集落支援員」のような国の移住者を増やす制度を上手く活用し、行政や村の課題に取り組んでいただきながら、働いてもらっています。
移住者への金銭的な支援は、子育て支援が充実しています。
お子さんが中学生までは医療・給食費が無料。もう少し小さいお子さんであれば保育料が無料と、支援は手厚いです。また、不妊治療などの助成金制度も充実しています。
「移住相談窓口」も強化しているので、嬬恋村への移住者は増えており、人口は自然増というところです。
嬬恋村をスマートシティに
──最後の質問になりますが、観光と地方創生についてどうお考えですか。
三ツ野さん まずふるさと納税は、毎年約1億円で推移していますが、納税される方は観光客か別荘の方が多いです。
その方々がふるさと納税の税金をどう使って欲しいかなどをヒアリングし、目的に沿った税金の使い方をすることによって、よりふるさと納税を増やしていきたいです。
地方創生の視点でいえば、群馬県・嬬恋村は「観光・関係人口増加のための嬬恋スマートシティ」の取組みを開始しました。
2022年度夏の「Digi田甲子園」のコンテストでは、実装部門(町・村)内閣総理大臣賞で優勝しました。
三ツ野さん 都市OSを活用した観光スマートシティとして、観光客の人流やパネルアンケートなどのビッグデータを分析、集約します。
観光データはプッシュ通知で情報を提供し観光業を活性化し、防災システムとも連携する予定です。
これからは観光まちづくりの視点に基づき、観光を使って地域をつくっていくことに重きを置きます。観光をツールにし、地域課題を解決し、持続性を強化する方針です。
一般社団法人嬬恋村観光協会
〒377-1524 群馬県吾妻郡嬬恋村鎌原710-136
TEL:0279-97-3721