白瀧酒造、ミズとともにその先へ。若い杜氏とともに進化する「上善如水」

今回は、「上善如水」(じょうぜんみずのごとし)ブランドで日本酒ファンから人気を集めている白瀧酒造株式会社(新潟県・湯沢町)を紹介します。

若手も大胆に登用、酒造りの最高責任者である杜氏(とうじ)を6代目の山口真吾氏から当時27歳の松本宣機(まつもとたかき)氏に交代しました。

※杜氏・・・酒造りの最高責任者で、杜氏の下で働く蔵人(くらびと)を管理・監督します。
※写真・・・白瀧酒造新旧の杜氏(左から7代目の松本宣機さん、先代6代目の山口真吾取締役)

伝統と挑戦が共存する白瀧酒造の山口真吾取締役と、広報担当の松村舞子さんに話をうかがいました。

白瀧酒造 6代目杜氏

山口真吾さん

白瀧酒造 広報担当

松村舞子さん

新潟県湯沢町と白瀧酒造について

新潟県湯沢町は、新潟県有数の温泉街。川端康成の小説『雪国』の舞台の地であり、冬には多くのスキーヤーで賑わう観光の街です。

創業は幕末で、今では看板商品「上善如水」をはじめ、派生商品も人気で挑戦的なお酒造りで人気を集めています。

創業は江戸時代末期。三国街道の湯沢宿で旅人向けに酒屋を開店したことから始まった

湊屋藤助の創業以来168年の歴史を誇る

──白瀧酒造は江戸時代から続いています。まずその歴史からうかがいます。

山口真吾さん(以下、山口取締役) 創業は1855年(安政2年)。時代背景は、アメリカのペリー来航の2年後で激動の幕末時代に突入したあたりです。

所在地は新潟県・湯沢町。当時は湯沢宿があり、越後(今の新潟)と江戸を結ぶ三国街道の宿場町でした。

湯沢町には谷があり、いい水が湧いています。宿場町は、旅人の往来もあり、創業者・湊屋藤助(みなとやとうすけ)が酒蔵(さかぐら)のもとになる酒屋を開店したのが始まりです。

※酒蔵・・・お酒を製造したり、貯めておくための蔵のことを指します。

現社長は藤助から数えると7代目にあたり、168年間の歴史を持っています。その間、明治維新、鉄道開通や高度成長などの社会的変化で、酒量販売の大小もありました。

時代にあわせてお酒を振舞っていることは変わりありません。商圏的には、この新潟と隣の関東地方が主戦場です。

新潟が全国で一番酒蔵が多い理由は「水」

──新潟は酒蔵が多く、その源泉が水とコメと言われています。新潟の水と湯沢町の地下水脈にはほかの地域にはない魅力があると思います。

山口取締役 国内には1000近くの酒蔵がある中、新潟県に約1割の90近くの酒蔵が集まり、日本全国で一番多い。諸先輩から水に恵まれた地域は、酒蔵が集まることを教えられました。

ちなみに、新潟の酒蔵の水は軟水が多いです。軟水は柔らかさと美しさに恵まれています。ミネラル分が少ないため、お酒の発酵にはあまり向いていません。

ところがお酒にすると、やさしさやきれいさを醸し出します。

新潟の水はなぜよいかという点は私にもわかりません。全国的にも河川が多く、雨や雪の恵みもあり、地下水脈に水が溜まっています。

かつては、いい湧き水も生まれていた豊かな地域です。そこで水源を確保し、酒造りを継続して営む方が多いのでしょう。

もう一つ大切なことは、新潟県民はお酒の一人当たりの消費量・販売量が多く、お酒が好きな方が多いのです。

山々の雪解け水が湯沢町の豊かな水になり、お酒の原料に使われている

豊かな湯沢町の水のみなもとは谷川連峰

──この湯沢町の豊かな水のみなもとはどこでしょうか。

山口取締役 湯沢町の谷地(やち)に酒蔵があり、湧き水など自然に恵まれた地域です。

今でも1mほど掘ると水が湧き、工事業者はポンプで排水しないと、仕事にならないエリアです。水ガメが地下にある場所で、豊かな水をもとにお酒を造っています。

この水の恵みは、群馬県と新潟県にまたがる谷川連峰(山脈)の存在が大きい。この谷川連峰が雪雲を止めることで関東地方には雪が降ることが少なく、一方新潟には雪が多く降ることになります。

谷川連峰からの雪解け水が、時間をかけて湯沢町周辺に蓄積しています。この水は軟水ですが、硬度の数字以上に口当たりが柔らかく、それを酒造りに生かしています。

冬は「にごり酒」「しぼりたて原酒」が人気

──今は冬ですが、これから春に向かっていきます。この季節におけるお酒の楽しみ方を教えてください。(2023年1月24日に取材を実施)

山口取締役 アルコール度数が高い「にごり酒」「しぼりたて原酒」のほか、「熱かん」を提案しています。実際に冬では、これらのお酒の売れ行きは好調です。

日本は縦に長い国ですからすべての地域に合うとはいえませんが、2月末から3月にかけて暖かくなり、開放的なお花見シーズンになります。

春に向けては、「上善如水 スパークリング」のようなアルコール度数が低くなる花見酒が好まれるようになるでしょう。

お花見シーズンには炭酸入りでアルコール度数の低い「上善如水 スパークリング」が好評

──季節や月にあったお酒を提案している「12か月のお酒」シリーズも好評ですね。

松村舞子さん(以下、松村さん) はい、季節によって好まれるお酒をラインナップしています。

たとえば、1月の「湊屋藤助 純米大吟醸 生詰原酒」のアルコール度数は17度以上18度未満と比較的高いお酒を提案しています。

通常であればお水を入れてアルコール度数を15度前後に調整しますが、それをせず原酒で楽しんでいただきます。

2022年12月には「にごりの上善如水 純米吟醸」を季節限定販売しました。

55%まで磨いた米を使用し、じっくりと低温で発酵管理したもろみを、あらごしにして「にごり酒」としました。華やかな香りとクリーミーな舌触り、そして濃厚な味わいを楽しめます。

仕込みのシーズンだけの限定品として「にごり酒」を販売することが多く、こちらもアルコール度数は、17度以上18度未満と辛口のお酒になっています。

2月1日から「生もとにごり酒 by Jozen 純米」を出荷しました。アルコール度数は8度以上9度未満と低いです。

甘さを感じるふくよかな旨味と酸味が印象的で、生もと造りの純米にごり酒です。

新米で仕込んだ新酒に大きな反響

──「12か月のお酒」に対する反響も大きいのではないでしょうか。

松村さん 新米で仕込んだ新酒は反響が大きいです。

2022年11月に「新米新酒の上善如水 純米吟醸」を出荷しました。秋に収穫された新潟県産の新米のみで仕込んだ上善如水の新酒で、しかもしぼりたてです。

お客さまからは、「今年も待ち遠しかった」とのお声をいただいております。

新米による新酒は毎年、改定しデザインにもこだわりを持っています。SNSでもこのパッケージが気に入ったため、お酒の中身を知らなくても購入する「ジャケ買い」をされた方もおりました。

白瀧酒造は「上善如水」を2年前にリニューアルした

年々進化し、派生商品も生まれる「上善如水」

──白瀧酒造と言えば、「上善如水」と言われるほどブランド力も高まっています。今後の展開については誰しもが期待しています。

山口取締役 「上善如水」は1990年(平成2年)に、湯沢町の若いスキー客をターゲットに販売を開始しました。

当時人気だった白ワインのように、フルーティーで香りがすっきりしたタイプのお酒です。ラベルや瓶も一新したことで、若者に受け入れられました。

飲んだときの、やわらかさやのど越し感、品格が優しい感じで表現されております。この基本的な理念は変わりませんが、時代にあわせて少しずつ進化しています。

最近では、精米具合を60%から55%へと変え、5%のコメを削っています。

お客さまからすると、味わいが上品になり、前よりもやさしくなっているとの評判を得ています。

「純米吟醸」「純米大吟醸」「純米吟醸 生酒」と炭酸が入っている「スパークリング」などの派生商品も充実しています。

これから「上善如水」とその派生商品のすみわけを行っていきます。

──派生商品の位置づけと、反響について教えてください。

山口取締役 派生商品は、お酒の入門編のような位置づけで若い方に好まれる傾向があります。

甘さが強く、アルコール度数が低いですが、派生商品から定番品「上善如水」へのファンになって欲しい。

反響は、「日本酒にはこんな種類があるんだね」と驚かれる方も多く、白瀧酒造をよく知っているお客さまは「またチャレンジしてくれたね」と喜ばれる方もいます。

代表も「チャレンジしよう」と社員を励ましているので、若手社員もそれにこたえて、チャレンジングな商品を次々と発売しています。

もちろん商品化にいたるまでは苦労はありますが・・・。今の杜氏も30歳を少し超えたばかりですので、優秀なセンスを持っています。

松村さん 日本酒を飲んだことがない方にも季節のお酒を飲んでほしいです。

パッケージを斬新にし、カラフルでオリジナルカットのボトルを採用するなど見た目から楽しんでもらうよう工夫しています。

酒造りの小仕込みのもよう

酒造りの最高責任者・杜氏の世代交代に成功

──山口取締役は6代目の杜氏で、7代目には松本宣機氏に引き継がれました。どの業界も技術者の後継ぎが不在のまま会社が衰退していく中で、若い方が継がれるケースは素晴らしいです。

山口取締役 7代目杜氏は学校卒業後、白瀧酒造に入社、最初の2年はびん詰めの仕事から始まり、その後酒蔵に入りました。

感性が豊かで物おじをせず、言ったことを必ず実行することに好感を抱きました。

体も頑丈でプレッシャーにも耐えられる素質がありますから、あとは次の杜氏を任せる覚悟を理解してもらいました。

私としては本当にいい人材が入社してくれたと、感謝の気持ちが強いです。

パッケージに若手の意見も採用

──若手社員の意見の登用も活性化しているとのことですが。

山口取締役 年配の社員が定年を迎える中で、常に地元の新卒やキャリア採用を重ねていることで年齢構成的にバランスの取れた配置になっています。

若手社員も3~4年とキャリアを重ね、酒造り、販売やデザインに強い責任感を抱くようになったことは大きな収穫です。

伝統を次の世代にタスキをつないでいくためには、若手人材の採用と育成は大切なポイントです。

商品開発にも、若手の意見をリサーチし、取り入れています。

松村さん 2年前に「上善如水 純米吟醸」をリニューアルし、雪どけ水を口に含んだようなシンプルで清らかな味わいに生まれ変わりました。

その際の会議では、若手からも積極的に意見を言ってもらいました。

その一つに、「若い人は、『上善如水』を『ジョウゼンミズノゴトシ』と読めない方が多いですよ」との提案もありました。

そこでパッケージにフリガナもつけたデザインにしました。ですから、若手の意見も内容がよければ柔軟に採用する姿勢があります。

2月1日から出荷開始の挑戦的な「生もとにごり酒 by Jozen 純米」
海外でもにごり酒は人気

外国の日本食ブームといい相乗効果も

──旧正月のシーズンを迎え、訪日外国人も増えております。外国人の日本酒ブームも根強いと、うかがっています。

山口取締役 輸出販売の専門部署もあり、外国に輸出するルートも決まっています。今はオンラインシステムを使い、現地代理店と商談しています。

お客さまの要望に応えつつ商品開発を展開しています。今、湯沢町はスキーシーズンを迎え、外国人スキーヤーも増えており、JR湯沢駅周辺にはさまざまな言語が飛び交っています。

湯沢駅には白瀧酒造のショールームもあり、認知度も広まっています。コロナ禍が静まれば、情報発信も強化し、輸出も盛んになることを期待しています。

日本食があるところには日本酒もあり、両方のブームがいい相乗効果を生み出しています。現在の販売量では韓国、北米、台湾、オーストラリア、ヨーロッパなど30か国で人気を集めています。

あくなきチャレンジが続く白瀧酒造

──今後の方針はどうでしょうか。

山口取締役 商品開発もこれで打ち止めすることはありません。開発後には次に向けて開発する酒造会社です。

あくなきチャレンジとトライを続けます。時にはエラーする場面もあるでしょうが、よき伝統を保ちつつ、常に挑戦を続け、新たな商品を生み出し、お客さまに提供します。

白瀧酒造株式会社

〒949-6101 新潟県南魚沼郡湯沢町大字湯沢2640番地
TEL:025-784-3443(代表) 
FAX:025-785-5485

この記事の執筆者

長井 雄一朗

建設業界30年間勤務後、セミリタイアで退職し、個人事業主として独立。 フリーライターとして建設・経済・働き方改革などについて執筆し、 現在インタビューライターで活動中。

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