近年、都市化や地球温暖化が進み、破壊されていると言われている自然環境。
そんな失われつつある自然環境を昔の姿に戻すべく活動をしている団体が大阪府にある公益社団法人 大阪自然環境保全協会(愛称:ネイチャーおおさか)です。
今回は、事務局長の木村さんに、協会の活動内容や今後の展望について伺いました。
公益社団法人 大阪自然環境保全協会
事務局長 木村 進さん
現在の会員は816名
──公益社団法人 大阪自然環境保全協会(以下、ネイチャーおおさか)は、さまざまな活動を行っていらっしゃいますが、主な活動はどのようなものでしょうか?また、2023年現在、会員数は何名いらっしゃるのでしょうか?
木村 進さん(以下 木村さん) 大きく分けると4つの活動があります。
1.身近な自然に親しむ観察会(約30グループ、年間約200回、延約3000人)
2.自然・動植物を学ぶ講座(6講座、年間約150回、約120人受講)
3.自然を知るための調査(約10項目、里山一斉調査やタンポポ調査・サシバPJなど)
4.自然を守る保全活動(約10件、里山保全活動・夢洲の自然再生など)
2023年12月10日現在の会員数は816名で、その内訳は下記のとおりです。
・正会員:173名
・協力会員:426 名
・家族会員:62名・学生会員(高大)2名
・ジュニア会員(3歳~中学生):153名
小さな集合体から形成されたネイチャーおおさか
──ネイチャーおおさかはどのように設立されたのでしょうか?
木村さん 以前から、自然観察会や保全活動は関西各地で各々行われている方がいらっしゃったり、大学のサークルで学生が行っていました。それが、1970年代の公害問題による市民活動が活発化したことで、同じ目的の団体が集会などを開催したりして、各地域の団体や個人が意気投合して集まり、1976年にネイチャーおおさかが設立されました。
タンポポで環境変化を知ることができる
──タンポポ調査という興味深い活動をされていますが、どのような活動でしょうか?
木村さん タンポポには、在来種と外来種があります。
・在来種・・・昔から生存していたもので、その地域の生態系と密接に関係している。
・外来種・・・もともといなかったが海外から持ち込まれたもの。
タンポポの外来種は、受粉をせず繁殖することができるので、自然が失われて虫のいない都市部や開発地域でもどんどん子孫を残すことができます。
一方、在来種は、昆虫などによって受粉が必要かつ近くに同じ在来種がいることが繁殖の条件のため、自然が破壊される地域では繁殖が難しいのです。
つまり、在来種が減り外来種が年々増えてきていると自然破壊が進んでいることとなります。
このタンポポ調査で判明したおもしろい事例があるのでご紹介します。
堺市にある泉北ニュータウンは、以前は自然がたくさんあった場所でした。しかし、ニュータウンを作るために道路整備や集合住宅が建ち並び都市化が進んでいったのです。
都市化が進む前の1975年のタンポポ調査では、在来種が全体の多くを占めており、外来種は5%程度でした。
しかし、2005年の調査では在来種が大幅に減り、外来種が全体の55%になってしまったのです。これはやはり都市化の影響でした。
ところが、2020年の調査では、外来種が31%にまで減り、再び在来種が増えているという結果が出ました。
実はこれは、開発の際に伐採を免れた雑木林やため池などを残したためです。そこにまだ残っていた在来種が地道に子孫を増やしていったのです。
このように、タンポポは環境変化を知ることができる重要な植物なのです。
当協会でタンポポ調査は、1975年から5年毎に行い、大阪の自然環境の変化を記録・観察しています。私は大学4回生の頃に行い報告書も作成した第一回調査から約50年間、ずっと参加しているんですよ。
多いときには3万ものタンポポが集まったこともありました。
調査は、市民のみなさんの協力のもと行われます。まず調査用紙に見つけた場所の住所などの必要な事項を記入していただきます。
その用紙と一緒に、採取した花をティッシュペーパーに包んで、あればタネもいっしょに送っていただくというものです。種類については、送っていただいた花をもとにこちらで調べています。次に調査は来年春に行われるので、ぜひご協力ください。
企業との協働でさらなる発展を目指す
──15社以上の企業と様々なかたちで協働されているそうですが、具体的にどのようなことをやってらっしゃるのでしょうか?
木村さん 形態はさまざまですが、下記のような協働を行っています。
エルセラーン化粧品株式会社では社員研修を兼ねて里山保全活動をするのですが、参加者も多く非常に真剣に取り組まれていたのが印象的です。
また、NTT西日本はタンポポ調査の際に沖縄からわざわざ送っていただいたり、社内報で周知してくれたりと、非常に熱心に取り組まれていましたよ。
企業は社会貢献として環境保全活動を進める中で、市民活動との接点のため保全協会との連携を行っておられます。さらに環境保全に貢献するとともに、私たちからは企業の取り組みに対して専門的な提案をさせていただいております。
そして、協会のメンバーが協働作業に参加することでさらに活動が広まるわけですね。
スタッフ手作りの観察会を年に多数開催
──大阪府周辺で年間約200回の観察会を開催されているそうですが、具体的にどのようなことを行っていらっしゃるのでしょうか?
木村さん 観察会は2種類あります。
大阪府内の各地(能勢の里山から、大阪市内の都市公園を含め、岬町の海岸まで)で約20グループの地域観察会と、ウミウシ観察会のようにテーマを絞った観察会グループです。
それぞれに当協会の運営スタッフがいて、市民向け・子どもも参加できる家族向けなどの観察会を企画運営しています。スタッフ自身が、みんなに体験してほしい自然を紹介する観察会の企画を行っているんです。
運営スタッフの中には、過去私たちの観察会に参加し、自然についての興味を深め、その知識を広めたいと入会してくれた方も多数いらっしゃいます。入会後はより専門的な講座を受講し、運営スタッフとなってくれるのです。
観察会自体は、基本的には以下のような流れです。
1.集合場所に集まった皆さんにその日のテーマや見てほしい動植物について紹介
2.安全面の注意
3.いっしょに歩きながら見つかる植物や昆虫、その他の動物を観察して、その名前や特徴、環境や人とのかかわりなどを説明
4.参加者からの質問を受ける
時には生き物を使ったゲームや工作をしたり、紙芝居で説明をするなど、スタッフの創意工夫によってみんなで自然を楽しんでいます。
セミの羽化観察会は人気で、120~200名程度の親子が参加してくれたこともありました。セミは18:00~20:00の間に羽化することが多いんです。
普段なかなかその時間帯に屋外で遊べない子供たちも、この観察会ではその時間帯に外出できるというもうひとつの楽しみがあり、みんなとてもワクワクして来てくれます。
一人で楽しむだけでなく多くの人と共に自然を守り、楽しみたい
──ネイチャーおおさかはボランティアの方々で成り立っていますが、どのような方が、どういった理由で活動されているのでしょうか?
木村さん やはり自然が好きな方、フィールドで自然を体験するのが好きな方が集まっているということに尽きますね。
あと、多くの人と一緒に自然体験をしたい、自分が学んだことをみんなに伝えたいというような一人で自然を楽しむだけではない活動をされたい方が多いです。
さらには、身近な自然が失われている現状を知って、何とか守っていきたい、それをみんなに呼びかけていっしょに守っていきたいと考えている方も多いですね。
失われた自然を取り戻す活動を進めていきたい
──ネイチャーおおさかの今後の展望をお聞かせください。
木村さん ご存知のように、大阪の自然は数十年間に比べると著しく減少しています。
私は高校教師で生物を教えていたのですが、自然環境が減少しているために子ども時代に自然に触れる体験が激減していると身をもって実感しました。観察会も遠方に出かけることが必要になっています。
また、昨年の生物多様性条約の改訂やそれに基づく日本の生物多様性国家戦略では、30by30という大目標(2030年までに国の陸地の30%と海域の30%を保護地域とする)が掲げられています。
さらに、大阪のように劣化した生態系の30%で自然の再生をめざすことが求められているのです。今までの自然環境に関するこのような国際的な目標では、劣化した自然をもとに戻すという内容のものはありませんでした。
当協会は、設立時の50年前から都市域の自然を守るとともに、失われた自然をもとの状態に戻すことを目標に掲げて活動してきました。ですので、やっとこのような活動が重要であると認知されてきたとも言えます。
この目標実現に向けて、多くの方、とくに若い方に自然に関心を寄せていただき、皆さんと連携しながら身近な大阪の自然を取り戻していく活動を進めていきたいと考えています。
公益社団法人 大阪自然環境保全協会(ネイチャーおおさか)
〒530-0041 大阪市北区天神橋1-9-13 ハイム天神橋 202
TEL:06-6242-8720
FAX:06-6881-8103