北海道・南富良野町は北海道のほぼ中央にあります。周りを十勝岳・日高山脈といったダイナミックな山並みに囲まれている場所です。
面積は665.54平方キロメートルで東京23区と同じくらいの大きさ。その多くは豊かな森林で占められ、東西を流れる空知川や、人造湖のかなやま湖などの美しい水資源にも恵まれた場所です。
体験できるアウトドア・アクティビティも多く、知る人ぞ知る「アクティビティの聖地」でもあります。
今回、NPO南富良野まちづくり観光協会 事務局長 小野 寿樹 さん にお話を伺いました。
NPO南富良野まちづくり観光協会
事務局長 小野 寿樹 さん
中学生の頃まで南富良野町で育つ。数年前より町からの熱心なオファーを受け、35年ぶりに南富良野に戻り現在の業務に就く。
南富良野はどんな場所?
──南富良野町はどんな場所なのでしょうか。
小野 寿樹さん(以下、小野さん)南富良野は1891年、砂金採取者が町内金山に入り開基したことに始まります。
林業で栄えましたが、現在ではじゃがいも・人参・大根・大豆・小麦・大麦・トマトなどを主に作る農業の地として発展してきました。
1級河川の空知川をはじめシーソラプチ川やかなやま湖など、水資源も豊富です。その自然環境はアクティビティ条件に大変恵まれた地域であり、「アクティビティの聖地」と呼ばれています。
──そうなんですね。プロの方にとっても有名な場所なのでしょうか?
小野さん そうですね。現在、アウトドア関連のガイドの数は町内に30〜35人くらい在籍していますが、これは北海道内でも有数のガイド数だと思います。
ちなみに、道の駅にもアウトドアブランドの「モンベル」が入っています。これも、アウトドアが盛んな町であることが理由の一つです。
体験できるアウトドア・アクティビティ
──体験できるアクティビティについて教えてください。
小野さん 春〜秋はトレッキング、ハイキング、サイクリングが楽しめて、夏はラフティング、カヌー、カヤック、SUPなど水のアクティビティも楽しめます。
ちなみに、春でも空知川・シーソラプチ川ではラフティング体験ができます。雪解け水によって川の水量が多くなり、夏とは違った迫力を楽しめますよ。
秋は9月下旬ごろから紅葉のピークとなります。紅葉を見ながらのカヌー、サイクリング、ハイキングなどもおすすめです。風のない晴れた日などは、かなやま湖の水面に鏡のように紅葉の景色が映し出されます。
冬はウインタースポーツ全般、ワカサギ釣り、犬ぞり体験、カーリング体験などが楽しめます。カーリングは初心者の方でも大丈夫。シューズなども全てレンタル可能です。
──紅葉が9月下旬とは、やはり国内の他の地域よりもずいぶん早いですね。
小野さん そうですね。夏も他の地域と比べると涼しいと思います。朝晩は涼しく、避暑地としてもおすすめです。
今年の夏は例年よりも全国的に暑い夏でしたが、南富良野の気温は、日中は平均して20℃後半くらい。比較的過ごしやすい気候だったのではないでしょうか。
──冬、かなやま湖ではワカサギ釣りができるのですね。詳しく知りたいです!
小野さん 湖面に穴を開け小さな竿を垂らして釣るのですが、ワカサギ釣りはさほど力も技術も必要ないので、女性や小さなお子様でも楽しむことができます。
氷は50〜60センチの分厚さなので、割れて落ちるというようなこともありません。
町内のアウトドア業者を利用していただければ、釣ったワカサギをそのまま天ぷらにして食べられるサービスも。かなやま湖の水は非常に綺麗なので、ワカサギに臭みがなく非常に美味しいと評判です。
業者の方で長靴やワカサギ釣りに必要な防寒服なども貸し出してくれるので、手ぶらで行っていただいても大丈夫ですよ。
また、テントの中で暖を取りながら釣るので、全くと言っていいほど寒さを感じず楽しむことができます。
希少価値の高い魚「イトウ」
──かなやま湖には、通称幻の魚「イトウ」もいるんですよね。
イトウは、サケ目サケ科イトウ属に分類される淡水魚。背は青みがかった褐色、側面は銀白色、腹は白色で背と側面には無数の小黒点がある。
国際自然保護連合(IUCN)と環境省が絶滅危惧種に指定。その希少さと大きさから釣り人や自然愛好家、魚類研究者の関心が人気が高く、「幻の魚」と呼ばれている。
これは全道的に個体数が激減したため、こう呼ばれるようになった。その減少年代は、文献等により1950年以降であろうと推測されている。
(Wikipediaより一部抜粋、参考URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/イトウ)
学名は「Parahucho perryi」。 perryi は、日本開国のきっかけになった黒船来航のペリー提督にちなんで命名されています。ペリーは箱館に寄港し、イトウのことをイギリスの生物学界に報告した人物なんですよ。
──「イトウ」ぜひ見てみたいです!見たり釣ったりすることはできるのでしょうか?
小野さん はい。かなやま湖は原則遊泳禁止の湖ですが、運が良ければカヌーやSUPの上からイトウを見ることができる時もあります。
釣ることも可能です。しかし「南富良野町イトウ保護管理条例」に基づき、キャッチ&リリースをお願いしているほか、保護上重要な区域および期間を指定して採捕の自粛をお願いしています。
──条例の制定は、当時全国初の取り組みだったとお聞きしています。
小野さん そうです。イトウの保護を目的として、町の職員の中でイトウを専門としている者が、そういった規制を設けたり活動を行ったりしています。
メディアによる取材が入る場合、職員立ち合いのもと、いくつかの条件を承諾できる場合にのみ撮影を認めています。
イトウは空知川上流とかなやま湖を回遊しています。産卵期になると空知川に遡上(そじょう)して産卵をします。その産卵で孵った稚魚たちは、秋に湿原状の水路に入り込んで冬を過ごすのです。
今、イトウの生息の道のりを1つのアドベンチャーとして体験できるツアーを作りたいと考えています。
小野さん 例えば、最初にカミホロカメットク山の水源を見てもらって、下山をして南富良野に戻り、シーソラプチ川の下流の方からラフティング〜サイクリング〜カヌーに乗り、最後はかなやま湖に戻る、というようなツアーを作りたいです。
産卵場所については、きちんと説明した上で自然を荒らすことのないようルールも整えます。それが逆に、このツアーの魅力を認識していただけるポイントになるのではと考えています。
──とても魅力的なツアーだと思います。子どもたちへの教育にも良さそうですね。
小野さん そうですね。もう既に、町内のイトウの専門職員によって町内の小・中・高校生に向けてイトウを取り巻く自然環境に関する教育プログラムが講じられています。
町の方としても、「町民であればイトウのことを知ろう」ということで、最初から教育の中に組み込み、取り組んでいます。
かなやま湖湖水まつり
──ちなみに、かなやま湖で夏に開催される「かなやま湖湖水まつり」は、地元の方に限らず多くの観光客の方も参加できるようなイベントですか?
小野さん そうですね。昨年は約20,000人の動員がありました。ステージイベントやキッチンカーなどによる飲食コーナー、アウトドアの体験イベントなどもありますが、最もメインとなるのは夜の大花火大会(富良野域最大級、打上数約2,000発)です。
小野さん 町の地形が2,000メートル級の山々に囲まれた盆地になっているため、音が大きく反響し合い、とても迫力があります。
また、湖の上で打ち上げられるため、花火の光が湖面に反射して大変綺麗です。
湖岸を囲む長さ約800メートルのナイアガラの花火は圧巻ですし、北海道内の人気がある花火大会のうちの一つとして位置付けられています。
その日は周辺の宿泊施設は満室になり、花火終了後は帰る車で渋滞するほどになります。会場がかなやま湖畔キャンプ場なので、キャンプをしながら花火大会を楽しむ人でいっぱいになります。
南富良野のおすすめグルメ
──人気があるお土産について教えていただけますか。
小野さん 「バタじゃが」「南ふらのチップス」「くまささ茶」、それから手摘みのトマトジュースなども人気があります。とても美味しいと評判です。
──私は「くまささ茶」を飲んだことがないのですが、どんな味なのでしょうか?
小野さん 強いクセなどもない、柔らかくサラッとした味わいですね。焼酎をくまささ茶割りで飲む方も多くいらっしゃいます。
また、様々な効能(解毒作用があり、胃弱・胃もたれ・高血圧・糖尿病・歯槽膿漏・口内炎・口臭除去・ 虚弱体質・アレルギー体質の改善に効果があるとされる。)があると言われているので、健康志向の方にも喜ばれています。
──そうなんですね!ぜひ飲んでみたいです。また、鹿が多いことから駆除の目的もかねて鹿肉の製造も行っていると伺いました。鹿肉を現地で食べることはできるのでしょうか?
小野さん はい、町内では2つの店舗で提供されています。町内には鹿肉の精肉・加工を事業展開している「ナンプフーズ」という会社があるのですが、そこが販売している「鹿肉ソーセージ」などの製品を店舗で提供しています。
あとは、鹿の肉・骨を使ったペットフードがあります。ふるさと納税の返礼品にもなっているのですが、鉄分が非常に多いということで、その栄養価の高さから大変人気です。
映画好き・鉄道好きにおすすめのスポット「幾寅駅」
──JR根室本線の「幾寅駅」は映画「鉄道員(ぽっぽや)」の舞台になったんですよね。
小野さん そうです。幾寅駅は、映画では「幌舞(ほろまい)駅」として登場します。今でも映画ファンの方が非常に多く訪れています。
しかしながら、JR根室本線の富良野〜新得間のうち5つの駅が南富良野の中にあるのですが、これら全て2024年3月には廃線予定となっています。そのため、かなやま湖に架かる鉄橋を列車が走る様子は2024年3月までしか観ることができません。
小野さん その報せを受け、廃線になると知った鉄道ファンの方の訪問も増えています。
幾寅駅は廃線後も観光協会の方で管理をする予定ですので、今後も変わらず観光することができると思います。ただ、他の駅に関しては維持管理の難しさもあり、管理を存続するかどうかはまだ協議中の段階です。
南富良野のこれから
──現在、労働力・住む場所が少ないことが課題とのことですが、自治体の方などで取られている対策などはありますか?
小野さん はい。移住促進に関しては企画課という役場の部署が動いております。
まだ予定の段階ではありますが、今後「おためし住宅」という制度の整備を進めているようです。3ヶ月間、フルセット装備された住宅に安価で住んでみることができるといった制度です。
そのような制度も活用しながら、集合住宅の建設も進めて、住宅事情問題の解決が進んでいくといいなと感じています。
──宿泊施設は増えていっていますか。
小野さん 今までは宿泊施設もあまり多くはなかったのですが、2022年に宿泊特化型のホテル「フェアフィールドマリオット」がオープンしたこともあり、キャパシティは増えていっています。
──今後、挑戦したいことなどはありますか。
小野さん 現在は「かなやま湖湖水まつり」が町内唯一のイベントとなっていますので、もっとイベントを増やしたいなと考えています。
アウトドア・アクティビティの聖地として、それに関連するイベントを開催したいです。
──最後に、南富良野町に対する想いを教えてください。
小野さん 南富良野町は人混みもなく、日常とは違った別世界を体験できる場所であるということが魅力です。
スピードが重視される社会の中で、ストレスをためやすい現実から少しでも離れる場所として選んで欲しいなと思います。
水辺で景色を見ながらゆっくりと過ごすことも良し、身体を動かしてリフレッシュするも良し。そういった様々な過ごし方ができることも魅力だと思っています。
南富良野は私の生まれ故郷です。その場所が、皆様から選ばれる観光地となっていくことを目指して、今後も活動していきたいと思っています。また、決して自然環境を破壊することなく、町を発展させていきたいです。
南富良野の人口は現在約2,300人ほど。まだまだ人が少なく労働力が足りません。近年、働き方の常識も変わり、都会を離れて田舎に暮らす人も増えていっていますし、ぜひ南富良野を住む場所としても選んで欲しいと思っています。
そのためにも、とにかく一度遊びに来ていただきたいですね。
NPO南富良野まちづくり観光協会
〒079-2403 北海道空知郡南富良野町字幾寅687番地 道の駅南ふらの内
TEL:0167-39-7000
FAX:0167-56-7990