片山津温泉は、石川県南部の加賀市に位置し、金沢市街からも車で50分という好アクセスの立地にあります。
湖面の色が7色に変化する「柴山潟」※、その奥に控える霊峰白山が眼前に迫ります。
この片山津温泉は、素晴らしい景観の場所です。
※柴山潟(しばやまがた)・・・石川県加賀市にあり、1日に七度色を変え、「彩湖」と言われた。片山津温泉が柴山潟に面しており、サイクリングロードや湖畔公園が整備され、晴れた日には白山を眺望できる。
2024年春には北陸新幹線(金沢~敦賀間)が開通。あわせて加賀温泉駅も開業し、関東地方からの利便性が高くなることから、新たな観光客の訪問も期待されています。
今回は、片山津温泉観光協会の桑原英輔さんに地域の魅力や取組まれている内容についてお話をうかがいました。
片山津温泉観光協会
担当者 桑原英輔さん
職員
「加賀温泉郷」の一つとして知名度が高い片山津温泉
──まず片山津温泉の泉質や効能からうかがいます。
桑原英輔さん(以下、桑原さん) 金沢市街から西へ車で50分走ると、自然豊かな温泉地「片山津温泉」があります。忙しい日常を忘れてゆっくりと温泉に浸かれば、身も心も健康になっていきます。
片山津温泉は、北陸「加賀温泉郷」の一つとして全国でも知名度が高いです。
霊峰白山を望む「柴山潟」の湖畔にあり、その泉質はナトリウム・カルシウム塩化物泉です。保温効果があって湯冷めしにくく、女性に多い冷え性にも効能があると言われます。
温泉で心身ともにぽかぽかになり、湯上り後には湯上りの時は湖面散歩も楽しめますよ。
特徴は、温泉濃度が濃い「高張性」です。つまり、身体に温泉成分が浸透しやすく、豊富に含まれる温泉成分の効果を得られやすいんですね。片山津温泉の良いところだと思います。
一方、脱水症状を起こす場合がありますので、長時間の入浴には不向きです。短時間で楽しむよう心掛けてください。
温泉の発見は地元のお殿様・前田利明公
──片山津温泉はどのような歴史を歩んでいたのでしょうか。
桑原さん 片山津温泉の始まりは江戸時代にさかのぼります。1653年(承応2年)に、当時この地を治めていた大聖寺藩※2代藩主・前田利明公※が柴山潟に鷹狩りに訪れたときのことです。
※大聖寺藩(だいしょうじはん)・・・加賀藩の支藩であり、石高は初め7万石、後に10万石となった。なお加賀藩(かがはん)は、江戸時代に加賀、能登、越中の3国の大半を領地とした藩で大名中最大の102万5千石を領有した。
※前田利明公(まえだ としあき)・・・治水工事や新田開発、用水路改修や製紙業の導入など、富国政策を重視して藩政を確立した名君として知られている。
利明公は、湖底の温泉を発見したと伝えられています。そこで利明公はこの温泉を利用しようとしました。
ですが、何度も工事を行ったものの、なかなか上手くいかなかったそうです。
以降、温泉開発の試みは続けられましたが、水中にある湯源を確保することは困難でした。
片山津温泉は明治時代に開湯
──どのようにして温泉を利用することができたのですか?
桑原さん 1876年(明治9年)、地元の有志により柴山潟では大規模な埋め立て工事が行われます。
その結果つくられた人工島に湖岸から橋が架けられ、ようやく人々が温泉入浴できるようになりました。
翌1877年(明治10年)には片山津最初の温泉旅館が開業しました。
以後温泉街を形成し、明治・大正・昭和と時代を超えて多くの湯治客が訪れ、日本社会の近代化と歩みとともに大きく発展していきます。
高度成長期やバブル時代には大きな温泉施設が建設され、1980年ごろには最盛期を迎えました。その後コロナ禍も乗り越え、現在は8軒の宿泊施設が営業しています。
恒例の花火大会は今年も好評
──現在の片山津温泉はどのように変わりましたか。
桑原さん 北陸3県でも有数な温泉街の規模に成長を遂げています。新たな時代の息吹を取り込み、良き伝統とフレッシュな魅力を持った湯の街に生まれ変わろうとしています。
温泉・屋形船・湖上花火などの従来の片山津らしさに、「晶子染め」のほかアクティビティを体験できます。また、カフェ併設の温泉施設「加賀片山津温泉 総湯」ができたことで、より新たな時代にふさわしい地になったと思います。
──温泉周辺のホテル・旅館などの宿泊施設についても教えてください。
桑原さん 明治時代から続けている伝統的なお宿さんである「かのや光楽苑」「湖畔の宿 森本」と2軒あります。
たとえば「湖畔の宿 森本」の女将さんは古くからの旅館スタイルを大切にされ、古き良き旅館としてのサービスを展開されています。女将さんの心くばりを楽しみに訪れる方もおられます。
ほか、「大江戸温泉物語ながやま」「NEW MARUYAホテル」などバイキング形式の料理を提供しているようなチェーン店系の宿泊施設も増えてきました。
さらに、「湯快わんわんリゾート片山津<わんちゃん専用>」「湯快わんわんリゾート矢田屋松濤園<わんちゃん専用>」は他にはない特徴のある宿泊施設です。
「ワンちゃんとずっと一緒」をコンセプトのもと、天然の温泉と湖のほとりで愛犬とのんびり過ごせます。
実は北陸には愛犬と一緒に宿泊できる施設が少なかったのです。しかしこの2軒のホテル開業で、愛犬を連れて散歩される方が増え、街も「ワンちゃん」色が強くなりました。
「加賀片山津温泉 総湯」で観光客を取り込む
──2012年に開業されました、「加賀片山津温泉 総湯」は好評のようですが。
桑原さん 42~44℃と比較的熱めの湯温調整ですので、長く・ゆっくりと温泉を楽しむ場合は時々水分補給することを心がけてください。
浴室には、それぞれ特徴が豊富な「潟の湯」と「森の湯」があり、毎日、男女が入れ替わります。
「潟の湯」の窓からは、柴山潟が前面に広がりますから、まるで湖に浸っているような感覚を楽しめます。
一方、「森の湯」の窓からは、樹木に囲まれた緑豊かな景色も楽しめ、癒しを感じられます。
ワ―ケーションでビジネスパーソンと家族を呼び込む
──最近、温泉を利用したワ―ケーション※が活発になっていますが、片山津温泉ではいかがですか?
桑原さん 片山津温泉でも力を入れている分野です。
※ワ―ケーション・・・「WORK(仕事)」と「VACATION(休暇)」を組み合わせた造語。休暇先で仕事(リモートワーク)を行うことを指す。リモートワークでは、オフィス以外の自宅やカフェなどを利用して仕事をするが、ワーケーションは旅行先や帰省先で仕事をするという違いがある。
絶景を眺め、温泉街を散策し、アクティビティや伝統的な体験を楽しみ家族や友人と、楽しいひとときをお過ごしできます。
その中で空いた時間にリモートワークができる環境を整えております。
日常とは違う場所、新しい体験、楽しいできごとはモチベーションを上げ、普段なら思いつかないような新しいアイデアが生まれることもあります。そこで我々も片山津温泉でのワーケーションを提案しているわけです。
片山津温泉でワーケーションができる場所は、「アパホテル&リゾート加賀片山津温泉 佳水郷」「季がさね」で、「湖畔の宿 森本」でもワーケーションができるよう、施設の一部を改装中です。
湖畔の景色も素晴らしく落ち着いた環境ですので、景観と温泉を活用したワ―ケーションを推していきたい。
出来ましたら、ビジネスパーソンとそのご家族の方とご一緒に滞在されることを期待しています。
お父さんやお母さんが仕事をされ、合間にお子さんとご一緒に遊んで楽しんでいただけるようなワ―ケーション事業を考えているのです。
住みやすい片山津温泉に移住支援
──やや話は変わりますが、移住支援についてはいかがですか。
桑原さん これは加賀市で定住移住支援をしています。具体的には、「住んでよし 訪れてよし」と思える魅力あるまちづくりに向け、転入者の支援や雇用の安定、市内での住宅購入・補修に対する支援を展開中です。
市は、片山津温泉を対象に「温泉街出店促進モデル事業」として中心部で新規出店する方へ費用の1/2(移住者等2/3)を助成します。
今、商店街も空き店舗も多いので、空き店舗の利活用を外部からの移住も含めて実施中です。
チャレンジショップなどでやっていけそうだと意欲のある方には物件を紹介し、起業されるマッチングを推進し、新たな魅力ある店舗が増えています。
片山津温泉はもちろん観光地や温泉街の魅力に加え、コンビニも多く暮らしやすい場所です。
また、旅館・ホテルでの人手不足という事情もあり、起業でも雇用でも受け入れられる土壌はあります。
福井県・金沢市の観光も楽しめる拠点に
──2024年春には北陸新幹線の金沢~敦賀間の延伸により、新幹線駅として加賀温泉駅が誕生します。北陸の観光にとって大きなインパクトをもたらすと思いますが。
桑原さん 繰り返しになりますが、片山津温泉は金沢市街まで車で50分という好立地です。昼間は金沢を観光され、お泊りは片山津温泉で温泉と景観を楽しまれる方も増えています。
福井県は、嶺北地域に観光地が固まっています。東尋坊、恐竜博物館も車で1時間以内の立地にありますので、片山津温泉に滞在すれば、金沢市と福井県の両方の観光も楽しめるのです。
周辺観光では非常にいい立地にあると自負しています。もう少し狭い範囲で「加賀温泉郷」全体を楽しまれるのも良いと思います。
「加賀温泉郷」は、片山津温泉のほか、まったく文化の異なる「山代温泉」「山中温泉」から構成します。
城下町、漁港、宿場町など、さまざまな個性と街並みを見ることができ、泉質も違います。
共同浴場も気軽に入れますので、湯めぐりや街の散策を観光として楽しんでみてください。
加賀市と連携し、関東地方にPRを強化
──PR活動も盛んに展開されるのではないでしょうか。
桑原さん 片山津温泉は北陸新幹線延伸などにより、北陸観光のベースになる立地に成長していくと期待しています。
関西地方や中部地方の方は北陸地方の地理に詳しいのですが、関東地方の方はまだPRが行き届いているとは言えません。
そこで北陸新幹線延伸を機会に片山津温泉だけではなく、周辺地域も含めた盛り上がりが必要と感じていますのでPRを進めていきたいです。
また、加賀市と連携し、関東地方をターゲットにしたPR活動を検討しております。ただ、個別に広告を打つと単価が桁違いに上がりますので、官民一体で効果的な広報活動に取組んでいきます。
温泉とともに海の幸を堪能できる海鮮処
──周辺のグルメも漁港から近いですから、お魚がメインになりそうですね。
桑原さん 片山津温泉から車で15分走ると、橋立港市場に到着します。
やまは水産・マルヤ水産特設市場では、「かに・甘えび」を主体に新鮮な魚・活魚など天然の味覚、海の幸をどっさり揃えています。
ここは漁師町ですから、新鮮なお魚を食べたいのであれば、橋立港に足を延ばしていくのもいいでしょう。
また、片山津温泉街でも地酒とともに日本海の地魚を振舞う居酒屋さんもあります。ぜひ、いいお酒とお魚の組み合わせでグルメを堪能して欲しいです。
ですからあえて素泊まりにして、地元のお目当ての居酒屋さんで飲食をされる観光客も多いです。
最近高級魚になった、「のどぐろ」のほか「ハタハタ」「メギス」と日本海独特の上品な味の白身魚が人気です。
アクティビティ観光にも注力し、若者を呼び込む
──最後に、観光は地域の地方創生に大きな役割を果たすと考えておりますが、いかがでしょうか。
桑原さん 柴山潟でアクティビティ体験を楽しんでいただく試みを行っています。インストラクターの指導のもと、ゆったりとした時間の中で初心者の方でも安心、安全にカヤック、サップ体験ができますよ。
片山津温泉のイメージアップにもつながると考えています。
このアクティビティをされている方が自主的にゴミ拾いを行っています。地元の自然保護や湖についても真剣に向き合い、自然との共生について考えられている方が増えていると感じます。
また、湖畔の景観を活かしたカフェの開業なども検討中です。
湖畔沿いの観光を活かしつつ、柴山潟を中心にした地方創生や活性化、人と人とのつながり。これらが見えてきたと思います。興味深く取組んでいますよ。
柴山潟の景観を守りつつ、さまざまな活動で地元の方の意識も向上し、プラスに働いていくことを期待しています。
アクティビティの場所は、通常は森の中など立地的に街と離れた場合が多いです。しかし、柴山潟は温泉街に面していますので、自然と温泉街の両方を気軽に楽しめるのです。
その点を盛んにPRして若者を呼び込み、他の温泉街との差別化を図っていきたいです。
片山津温泉観光協会
〒922-0412 石川県加賀市片山津温泉モ2-2
TEL:0761-74-1123
FAX:0761-74-1083