「福島の奥座敷」の異名を持つ飯坂温泉は、宮城県の鳴子温泉、秋保温泉とともに奥州三名湯の一つに数えられ、多くの歌人や俳人などの文人に愛された温泉場です。
日本武尊(やまとたけるのみこと)の開湯伝説があるほど長い歴史を持ち、近年では昭和天皇が福島行幸※の折に立ち寄られています。
※昭和天皇の福島行幸・・・戦後国民を励ますために、1947年8月5日と8月17日から19日にかけて福島行幸を行いました。飯坂温泉では花水館(かすいかん)に滞在されています。
今回は、飯坂温泉観光協会事務局の三浦恵子さんに話をうかがいました。
飯坂温泉観光協会事務局
担当者 三浦恵子さん
職員
奥州三名湯の一つに数えられる飯坂温泉
──まず飯坂温泉の歴史からお願いします。
三浦恵子さん(以下、三浦さん) 福島県福島市の飯坂温泉は、宮城県の鳴子温泉、秋保温泉とともに奥州三名湯の一つに数えられ、多くの人たちに親しまれてきました。
飯坂温泉の歴史は縄文時代にまでさかのぼります。紀元前3000年頃には飯坂温泉の地域に縄文人が住んでいました。当時の生活では狩りをして、時には温泉も楽しんでいたことでしょう。
飯坂温泉近くの上岡遺跡には、「しゃがむ土偶」というほぼ原形のままの縄文時代の土偶が発掘され、国の重要文化財に指定されています。
2世紀に日本武尊※が東国を攻めていた際、病気になった時のことです。そこで飯坂温泉発祥の「佐波子湯」に浸かったところ、たちまち元気になったという開湯伝説があります。
※日本武尊・・・第12代景行天皇の皇子で、第14代仲哀天皇の父にあたります。熊襲征討・東国征討を行ったとされる日本古代史上の伝説的英雄です。
飯坂には至る所に源泉が点在し、農民や庶民にも重宝されていました。江戸時代中期には周辺の庶民や旅人も訪れるようになりました。
松尾芭蕉(まつおばしょう)※も訪れ、知名度が高まりました。当時、温泉宿として営業されていたのは4軒で、人口300人ほどの小さな温泉街だったと言われています。
※松尾芭蕉・・・江戸前期に活躍した、日本史上最高の俳諧師の一人。弟子を伴い、江戸を発ち、東北から北陸を経て美濃国の大垣までを巡った旅を記した紀行文『おくのほそ道』が特に有名です。
外湯が当時からあったといわれていますので、温泉旅館で楽しむよりも芭蕉は、外湯文化を楽しんでいたことでしょう。
正岡子規、与謝野晶子ら俳人・歌人も訪れ、飯坂を詠んだ句碑が建てられています。
昭和天皇をはじめ皇族方のほか、著名な外国人ではヘレン・ケラーが飯坂温泉を訪れています。
松尾芭蕉も入浴した!? 「鯖湖湯」
──次は魅力あふれる温泉街だと思うのですが、どの点をアピールされていますか。
三浦さん 飯坂温泉の街中に共同浴場が9か所あり、湯めぐりを楽しめることが一番の魅力なんです。
足湯も無料のところが4か所あります。国の登録有形文化財である「なかむらや旅館」さんを眺めながら、足湯を楽しむなどそれぞれ趣きがあります。
共同浴場の中でも飯坂温泉発祥の地といわれるのが「鯖湖湯(さばこゆ)」です。芭蕉もこの湯に入ったといわれています。
以前は日本最古の木造建築共同浴場として親しまれ、1993年(平成5年)に明治時代の共同浴場を再現した御影石の湯船に改築しました。大きさは1.5倍に広げ復元しました。
飯坂温泉の泉質は、弱アルカリ性単純温泉です。豊富な湯量に加え、無色透明な湯に入浴すると、肌もスベスベに気分もさっぱりします。
飯坂温泉は熱いことが特徴の一つ。「鯖湖湯」は45℃前後ですが、他の共同浴場では50℃前後も多いです。
効能としては、神経痛・筋肉痛・関節痛・運動麻痺などの症状に効果があると言われています。
お風呂のあるなしにかかわらず、この高温のお湯は地元の皆さんに愛されています。
国登録有形文化財の旅館に泊まれるチャンスも
──次は温泉街にはどのような宿泊施設があるかについても教えてください。
三浦さん 飯坂温泉街には、摺上川(すりかみがわ)が流れ、その両脇や周辺に旅館・ホテルなどの宿泊施設が立ち並んでいます。
飯坂温泉の中心街には比較的小さい旅館が点在し、2~3km離れた場所に大きな旅館がございます。
飯坂温泉旅館協同組合の加盟店旅館が36軒あります。旅館の特徴も良さもさまざまですので、きっとプランに沿った旅館が見つかるはずです。
一例を紹介しますと、鯖湖湯付近には、古い町並みが残っており、国登録有形文化財の「なかむらや旅館」などがあります。
なかむらや旅館は、白壁土蔵造りの木造3階建てで、江戸末期建築の「江戸館」、明治時代中期建築の「明治館」の二棟からなり、また客間の随所に当時の装飾がほどこしてあります。現在では見ることのできない技術の美しさを感じることができる旅館です。
グルメは、「円盤餃子」「ラジウム玉子」で決まり!?
──温泉街といえば、温泉に加えて、グルメも楽しみです。
三浦さん 飯坂温泉の名物といえば、「円盤餃子」「ラジウム玉子」です。それ以外にも飯坂温泉の地酒も人気です。銘柄は、純米吟醸「摺上川(生酒)」、純米吟醸「摺上川(火入れ酒)」、純米吟醸「摺上川(ひやおろし)」を発売しています。
これは、名水「摺上川」の水とその水で育まれた、福島県生まれの酒米(さかまい)※である「福乃香」(ふくのか)※を使用し、福島市唯一の酒蔵「金水晶酒造店」で丹精を込めて醸造した銘柄です。
※酒米・・・日本酒の原料として使われるために作られたお米。
※福乃香・・・福島県が開発した酒米。
その味わいは香り高くフルーティーで、ほどよい甘さとスッキリとした呑み口が特徴で、郷土の香りあふれる地酒です。
飯坂温泉には40軒ほどの飲食店があります。福島市内からも交通の便が良いため、ご利用されている方が多いですよ。
──「円盤餃子」についての解説をお願いします。
三浦さん 旅館で働いていた仲居さんや芸者さんが仕事終わりに餃子を注文し、フライパンのまま配達。お皿にのせた餃子が円盤の形をしていたことが、ご当地グルメ「円盤餃子」の由来です。
そのため、飯坂温泉の「円盤餃子」はいまだに夜の時間に営業しているお店が多いと聞いています。
数だけ見ると食べられるか不安に思うほどボリューム満点ですが、旨味が凝縮された餡は、野菜がたっぷりで軽い食感。女性でもペロッと完食できちゃいます。
また、どのお店も注文を受けてから餡を包み、焼き上げていて、餡や皮、焼き方にもそれぞれこだわりがあり、餃子の食べ比べをしたくなるほどです。
一度食べたらやみつきになるパリッとした食感から、もちもちの食感まで、お店ごとに異なる円盤餃子を楽しめます。
──次に、「ラジウム玉子」とはなんでしょうか。あまり聞きなれないネーミングですね。
三浦さん 1898年に、キュリー夫妻※によって、「ラジウム」が発見されたことから来ています。「ラジウム」は、癌腫・肉腫などの悪性腫瘍の治療などに広く医療用として利用されています。
※キュリー夫妻・・・ピエール・キュリーとマリヤ・スクウォドフスカの夫妻。物理化学と放射線化学と物性物理学者です。ラジウム発見では特許を取得せず無償開放しています。
そこで当時の東京帝国大学医学生の真鍋嘉一郎(まなべ かいちろう)※は、飯坂温泉でラジウムを確認し、医学界でも大きな反響を呼びました。
※真鍋嘉一郎・・・明治後期から昭和初期の医学者で、日本の物理療法(理学療法)、レントゲン学、温泉療法の先駆者ともいえる方です。X線に「レントゲン」の名を初めて使用し、日本に定着させたことでも知られています。
三浦さん 飯坂ではこれを機に温泉玉子を「ラジウム玉子」として販売を開始したのです。
温泉のお湯に卵をつけると、ほのかな香りに包まれたゼリー状の白身と黄身になり、最も消化されやすい状態になります。滋養効果満点の食品としてご賞味いただけますよ。
夏は人気のカヤック体験
──飯坂温泉街周辺の観光はどのような場所がありますでしょうか。
三浦さん 温泉街周辺には果樹畑が広がっています。そのため、飯坂温泉は、「いで湯とくだものの里」とも呼ばれています。
12月上旬ごろまで果物狩りが楽しめるんですよ。
夏は、アウトドアの季節です。飯坂温泉の奥に、東北で4番目の大きさのロックフィルダム「摺上川ダム」があります。
摺上川ダムによってできた湖では、キャンプやカヤック体験などアクティビティを楽しめます。
夏場は、カヤック体験の予約がいっぱいです。今はペットを連れた体験もできるようになりました。11月くらいまで楽しめるんですが、秋が近づくにつれて風が強くなります。
そこで秋には早い時間帯でのカヤック体験をオススメします。
このほかに40種300本の花ももが咲き乱れる「花ももの里」という花の名所があります。見ごろは4月上旬から下旬です。
この花ももの枝を使った花もも染めが人気です。花もも染めのあずま袋と一緒にいろんなお菓子屋さんをめぐり、気に入ったお菓子を選んでお土産にする。それも楽しみの一つです。
また、歴史の古い「医王寺」というお寺では、「竹灯籠づくり」の体験ができるんです。
フルーツ王国の福島で桃パフェに絶賛の声
──福島はフルーツ王国とも呼ばれていますね。
三浦さん 福島盆地という高温多湿な気候と降水量が多くなく、冬は大変寒い地域ですので、果物栽培にとっては好条件がそろっているんです。
福島の桃は9月の上旬まで楽しむことができます。2022年全国家計調査によると、桃に関しては福島市が日本一の支出額でした。
ただ昨年のひょう被害で、世に出回らない桃がたくさんあったんです。それをきっかけに、福島市のどこにいても気軽に桃を味わえる桃づくしのキャンペーン「ふくしまピーチホリデイ」が始まりました。
期間は、本格的な桃シーズンに入る7月中旬から9月中旬までの2か月間です。
オシャレな桃スイーツや桃メニュー、さらには桃宿泊プランや桃狩り体験など、福島市内の至るところで桃を楽しめます。
桃以外でも季節により、サクランボ、ブドウ、なし、リンゴと通年で果物を楽しむことができます。この時期には、700円くらいからフルーツパフェが食べられます。食べ応えがあって美味しいですよ。
温泉むすめとコラボし、コンテンツを温泉街で活用
──話は変わりますが、日本全国の温泉地をモチーフにキャラクター化を行い、地方や観光地の魅力を知ってもらうことを目的とし、「温泉むすめプロジェクト」が進展しています。
三浦さん 飯坂温泉では、「飯坂真尋」(いいざかまひろ)ちゃん(担当声優・吉岡茉祐さん)が飯坂温泉特別観光大使として活躍しています。
2018年に温泉むすめのファンの方から、「飯坂温泉にも飯坂真尋ちゃんがいるのはご存じですか」という問い合わせがあったのです。
調べてみますと、温泉むすめを立ち上げられた方は、株式会社エンバウンドの代表取締役プロデューサーの橋本竜氏で、この方の出身地は福島県郡山市でした。
そこで取組みをはじめまして、今は私たちも愛着をもって、「真尋」ちゃんと呼んでいます。最近では福島北警察署ともコラボをして、詐欺被害防止を呼びかける温泉タオルを製作しました。
コロナ禍ではどこの温泉街も同様だと思いますが、この飯坂温泉も例外ではなく、集客に大変苦労しました。しかし、「真尋」ちゃんというコンテンツを活用することで若者の方中心に、遠くからおいでいただいたことは本当にありがたく思います。
もぎたてのフルーツを楽しめる果樹園も大きな魅力
──観光と地方創生は大きなテーマと考えていますが、いかがでしょうか。
三浦さん 7月30日に桃祭りを開きました。飯坂周辺にも果樹農家さんは多いのですが、観光とはあまり関係がないと思われている方もいます。
そういう果樹農家さんたちにも観光に向けて関心を寄せていただけるように、朝どりの桃を使ったパフェや桃自体の販売イベントを開催しました。住民、大学生、銀行、民間企業が一体で地域を盛り上げました。
こうしたイベントを引き続き開催して、観光などで地域活性化を図っていきたいです。福島市のコンテンツとしては桃が大きな存在ですので、引き続き活用していきます。
飯坂温泉観光協会・飯坂温泉旅館協同組合
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