アルカリイオン水を活用し、高級食パンの素材の旨味を引き出す|銀座に志かわ

「銀座に志かわ」は、日本だけでなくアメリカにも進出している「水にこだわる高級食パン」のブランドです。

高級食パンブームが落ち着いている今でもその動向と戦略が注目を集めています。

今回は、銀座に志かわがなぜ水に着目し、独自の高級食パンの開発に至ったか、そして今後どのような方針で進むかについてお話をうかがいました。

銀座 に志かわ

2018年5月に食パン専門製造販売会社として株式会社銀座仁志川を設立、同年9月に東京・銀座に1店舗目をオープンした。
日本全国のみならず、アメリカ・ロサンゼルスにも店舗を展開し、高級食パン業界の中でも快進撃を続けている。

食パンを極める視点で起業

こだわりの水がパンの素材の旨味を引き出した

──最初に銀座仁志川の代表をつとめる髙橋仁志氏のご経歴と起業された経緯からうかがいます。

2008年に100種類以上のパンを焼き立てで提供する「513BAKERY(コイサン・ベーカリー)」を展開するコイサンズ(三重県・津市)を創業。現在、愛知県・名古屋市を含め東海地方に11店舗まで拡大しています。

2010年以降には、日本人にとっての主食はパンがコメを抜き、大きな商機があると感じ取りました。

そこでベーカリー経営で食パンを極める視点をもとに、2018年9月に「銀座に志かわ」を東京・銀座で立ち上げました。

仕込み水をテーマに食パンの製造を検討

──そこで水にこだわった高級食パン店を立ち上げた理由について教えてください。

今、紹介しました「513BAKERY」では「そのまんま食パン」という食パンを製造、販売していました。

513BAKERY「そのまんま食パン」
引用元:513BAKERY 公式サイト

私は、「このシンプルなフォルムの食パンで画期的な製品が作れないだろうか?」と当時から考えていました。

実際、他のベーカリーでは、「〇〇の名水を使用した食パン、〇〇山の水を使用した食パン」などを見かけるようになり、そこから、仕込み水をテーマに食パンの製造を考えるようになりました。

──水の中でも、とりわけ整水器を用いて作るアルカリイオン水にポイントを置いた理由について教えてください。

2013年に浄水器やアルカリイオン製水機を手がけるOSGグループ(大阪市・北区)とのご縁が契機です。

アルカリイオン水は食材の旨味を引き出すことに優れていて、日本料理において『だし』をとるのには非常に向いている。

一流料亭の豆腐の仕込み水や、コーヒーにも使用されています。

と、助言を受けて興味を抱いたことが原点です。

「アルカリイオン水は食材の旨味を引き出すことに
優れている」との助言が転機に!

ほんのり甘く、モチモチした耳まで柔らかいと好評

──旨味がある天然水が、主に豆腐・お酒など飲食物に使われる印象があります。

──そこで、天然水とアルカリイオン水で製造した食パンはそれぞれどのような違いがあるのでしょうか。

食パンの製造には本来、仕込み水には弱酸性の水が適していると言われます。真逆のアルカリイオン水はイーストの活性につながりにくく、パンがうまく膨らまないなどパン製造に不向きと言われてきました。

一方アルカリイオン水は、食材の旨味を引き出すことに優れていると言われます。

銀座に志かわの高級食パンは、このアルカリイオン水で、原材料であるカナダ産の最高級小麦粉、北海道産の生クリーム、はちみつなどの旨味成分を引き出しています。

天然水との比較はいたしかねますが、ほんのり甘く、モチモチした耳まで柔らかいと好評をいただいています。

また、昨年から定番の食パンに加えて「あん食パン」、一斤サイズの「山型食パン」、月ごとに巻き込むあんの素材の替わる期間限定の「月初め食パン」の発売を開始いたしました。

これらの生地は全て、定番の食パンと同じ生地を使用しています。このアルカリイオン水で仕込んだ生地は銀座に志かわの食パンで、どの商品を作る際にも基本になる重要な部分です。

手土産・贈答品としての商品価値も高まる

──高級食パンブームは落ち着いているものの、日々の少しの贅沢であり、贈答品としての市場も生み出しました。そこで銀座に志かわとしてこの市場をどうお考えになり、またさらなる開拓・強化される方針ですか。また、御社は同業他社とここが差別化できていると強調されたい点もあれば教えてください。

手土産、贈答品としての商品価値は銀座に志かわでも重要視をしています。

新型コロナでの移動制限で外出などが減ってきて、その需要は減少した感はありますが、2022年あたりから、皆さまの外出も増えてだんだん、贈答品需要も増えてきていると感じています。

銀座に志かわの高級食パンは1000円以内の飾らない良さがあります。お客様がお持ちになるには、最適で白い紙袋にさりげなくしずくの模様を施し、高級感も演出しています。

そして、「月初め食パン」に代表されるように毎月、巻き込むあんの素材の変わる商品を期間限定で販売しています。より豊かな変化をもたらすことによって、お客様が喜んでいただけるような商品の販売も開始いたしました。

古き良き江戸文化の継承「和モダン」がコンセプトです。その和テイスト・風味をお客様に提供しています。

インスタグラムでのトッピング紹介が好評

──高級食パンを食べる際に、さらに美味しく食べるためにはどのような工夫がおススメでしょうか。

銀座に志かわではオープン以来、「最初は生」でお召し上がっていただくことを推奨してきました。

そして、購入2日目、3日目などにトースト、トッピングメニューなどをおすすめしております。

もちもち食感でほんのり甘い生地ですので、きんぴらごぼうなどは甘辛く、シャキシャキ食感でよく合います。

おすすめトッピングはきんぴらごぼう

食パンをご飯に見たてての発想で、たこわさび、イカの塩辛などのトッピングとも合います。

また、このアレンジメニューは公式インスタグラムで毎週2メニューほど紹介しています。

おうち時間の推奨が始まりました2020年・春から始めましたが、今までに約260ものメニューを紹介してきました。

フォロワー数も2万4000人を超えています。また、年に2回、春と秋に一般ユーザーを対象とした食パンアレンジコンテストも行ってきました。

銀座に志かわの公式インスタグラム

──それではインスタグラムのアカウント上でご紹介されているレシピ(アレンジ)の中で、お客さまに再現していただきたい最もおすすめのレシピを教えてください。

基本は銀座に志かわの食パンに合うアレンジで、誰でも簡単に真似ることができるレシピを提案させていただいております。

代表的なものは、先ほど紹介しました和惣菜との相性の良さで創業時よりきんぴらごぼうをおススメしております。

旬の食材を使用したアレンジも提案しており、冬の季節ですと苺を使用した苺ピスタチオ、さらにはシンプルなシュガーバタートーストもおススメです。

1斤サイズの「あん食パン」など新商品相次いで発売

「あん食パン」は上品の甘さと日本の美を追求

──高級食パンだけではなくいろんな商品をラインナップされています。どの商品も自信作とうかがっていますが。

はい、ご指摘通り商品は全て自信をもって提供をしております。

2022年2月から1斤サイズの「あん食パン」を発売しました。これは国内生産量が2%の希少な朱鞠小豆を使用した上品な甘さのあんを渦巻き状に巻き込んだ商品です。

銀座に志かわでは美味しさとともに、そのフォルムも自然な日本の美を追求しています。

5月からは、この「あん食パン」と同じ形状の1斤サイズの渦巻き模様の食パンで、その渦巻き部分・あんの部分を季節の旬な素材のあんを巻き込んだ「月初め食パン」を毎月の1日~10日間限定での販売を開始いたしました。

5月は新茶の季節の「伊勢かぶせ茶あん」、6月は収穫シーズンの「甘夏あん」、10月は秋を代表する味覚の甘栗のあんを巻き込みました。

これは「旬なものを食する」という「食の贅沢」に則った発想をもとに、この食パンで移りゆく日本の四季も感じていただきたいと思っています。

そして、この商品のメディア発表会を発売前に試食をかねて毎月行っています。

選別が始まる高級食パン業界

──次に高級食パン業界にお話しを移しますが、最近専門店での競争が激化しております。また高級食パンブームは去ったとの声もあります。この点についていかが受け止めておられますか。

高級食パンは、2013年からの「ブーム」と言われていた時代からコロナ禍を経てベーカリーブランドや店舗が増え続けてきました。

しかし、市場拡大が頭打ち状態に入り、現在では、お客様のベーカリーの選別が始まったと感じています。

一方、高級食パンを食べることは文化として定着している感もあります。

ブームはどこかで終焉がありつつも、お客様による高級食パン専門店に対する期待は続いています。

そこで高級食パン専門店らしく食パンに対して斬新な工夫をこらして提供していけば、まだまだ需要は続くと願っています。

我々は、このような状況を鑑み、お客様が求める食パン像を具現化して、常に銀座に志かわが提供する高品質でオリジナリティのある新しい商品で勝負します。

――コロナ禍も収束する動きもあり、社会が正常化に向け動き出しています。そこで銀座 に志かわとしては、新たな展開もあると期待されていますが、なにか具体的なことはご検討されておられますか。

移動制限とともに、ソーシャルディスタンスも緩和されるでしょう。

そういったことで、よりビジネスは活発になると期待しています。そこで銀座に志かわをもっと認知していただこうと、新機軸も考えています。

公式インスタグラムで紹介しているトッピングメニューの実践コーナーなどの場所を設け、多くの方に銀座に志かわの高級食パンの楽しみ方を公開したいと考えています。

アメリカ・ロサンゼルスでは毎日数分で売り切れる

成功したアメリカ・ロスへの進出 今後も期待

──次に海外展開について教えてください。ロサンゼルスからスタートしましたが、いかがでしょうか。

2022年7月7日にアメリカ・ロサンゼルスに海外1号店をオープンいたしました。

現地では、1本18ドルという少し高価な値段で提供しています。

しかし高級食パンブームならぬ、銀座に志かわブームが沸き起こり、毎日、オープンから数分でその日の予約が埋まるほどの人気です。

許諾はしていませんが、インターネットの競売サイトで高額で販売されるとの熱狂ぶりです。

アメリカでは、宅配ロボット「Coco」という遠隔操作で2マイル(約3.2km)までデリバリーするシステムを導入しているので、現地の生活スタイルにもマッチしています。

今後、アメリカではあと何店舗か、増やすことも検討中です。

アメリカの宅配ロボット「Coco」を導入
引用元:Gephyro Consulting

──髙橋代表は特に並々ならぬ思いで日本の食パン文化を海外に伝えたいという強い思いがあるようですが。

ロサンゼルスは元々、私が留学をしていた場所で、ここで大好きな食パンの店をオープンすることは夢でした。

食パンはイギリスの山型食パンに始まり、それがアメリカに渡り、角食パン(Pullmanbread)となり発展してきました。

明治初期にイギリスから山型食パンが伝わったことが日本の食パン歴史の始まりと言われています。

しかし、今の日本の食パンは角食パンが主流で、我々の「水にこだわる高級食パン」も同様です。

このスタイルは、味、食感の違う、おそらく「食パン」というカテゴリーからみたら、現地の方は異次元と受け止められるかもしれません。

しかし我々は先ほど、明治初期にイギリスから食パン文化が伝わったように、「高級食パンの伝道師(evangelist)」としてロサンゼルスで高級食パンの文化を広めていきたいと思っています。

おそらく、アメリカでは「食パンは自分で楽しむもの」と認識されている方が大多数でしょう。

そこで我々は、「ギフトしても最適」「人に贈っても喜ばれるもの」としての文化も伝えていきたいのです。

これぞ「食パン革命」と言うべきかもしれませんが、アメリカの食文化に一石を投じる思いでのぞんでいます。

右側が株式会社銀座仁志川の代表取締役社長・髙橋仁志氏

採用ではチームワークと責任感の視点で行う

──銀座に志かわを支える重要ポイントは人材であると考えております。どのような採用活動を行い、またどのような人材を求めているのでしょうか。

まず、食パンが好きであること、食パンを愛せる方、さらには高級食パン専門店のブランドイメージを一緒に構築できることは基本的なことです。

また、食パンの製造、販売、どれをとっても一人ではできません。

一人一人がその役割をしっかりと全うして初めて、美味しい食パンが出来上がり、お客様に買っていただくことになりますのでチームワークは非常に大切です。

同時に食パンなどの食べ物を製造・販売を行うことは非常に責任の重い仕事でございますので、責任を全うできる人材を求めています。

「誰が・どこで・いつ作っても、美味しい食パン」に

──特に高級食パンづくりにあたり、パン職人の育成はどのような点を心がけていますか。

「水にこだわる高級食パン」は熟練スタッフが加わり長い年月をかけて開発しました。

商品の種類が増えましたが、基本はこの定番食パンの大事な味と食感を保つことを重要視しています。

どの店舗で購入しても同じ商品として提供するために、国内各地のスタッフはそれぞれの気温、湿度などに応じて吸水率や発酵時間を調整するなど日々の徹底した数値管理を行っています。

また、各店の食パンを毎月1回本店でチェックし、工房内には WEBカメラを設置して銀座本店で製造過程を確認、オブザーバーがいつでも確認できるシステムを構築しました。

こうして、「誰が・どこで・いつ作っても、美味しい食パン」を基本コンセプトにキャリア50年以上の製造長が経験してきたノウハウを使って、各店舗の研修スタッフが短時間でパン職人に成長させることに成功しています。

現在、日本全国100店舗以上まで拡大いたしました。

──最後に銀座に志かわはどのような高級食パンづくりを目指され、展開される方針でしょうか。

常に「高級食パン専門店」としての使命感をもって歩んでいきます。

オープンして4年がすぎ、2023年9月で5周年を迎えます。この間、他のベーカリーとは一線を画す企画もしてまいりました。

「美味しい」ことは当然のことながら、「美しい」商品も提供し、店構えも白を基調とした高級食パン専門店らしく、清潔感あふれる仕様となり、暖簾をくぐったとあとの非日常感の接客、店内のたたずまいも高評価を得ています。

お客様には「高級食パンと言えば銀座に志かわ」と言っていただけるよう、今後もブランドコンセプトに沿ったさまざまなことにチャレンジしていきたい。そして、高級食パンを通して皆さまの生活がより豊かに笑顔になっていただくことをこれからも目指しています。

この記事の執筆者

長井 雄一朗

建設業界30年間勤務後、セミリタイアで退職し、個人事業主として独立。 フリーライターとして建設・経済・働き方改革などについて執筆し、 現在インタビューライターで活動中。

新着記事