福島県会津若松市にある会津東山温泉(以下、東山温泉)は会津藩の湯治場として栄え、山形県の上山温泉、湯野浜温泉とともに奥羽三楽郷と呼ばれていました。
お湯の泉質は硫酸塩泉であり、身体がポカポカになり、傷や打ち身に効能があります。あの新撰組の土方歳三がケガを癒した話も残っています。
2023年9月には会津まつりを開催。『NHK大河ドラマ 八重の桜』で主演を演じた綾瀬はるかさんは、ほぼ毎年祭りに訪れ、祭りを盛り上げています。
今回は、会津東山温泉観光協会の事務長である鈴木壽治さんにお話をうかがいました。
会津東山温泉観光協会
担当者 鈴木壽治さん
事務長
開湯1300年で、行基が発見した伝説を持つ
──会津東山温泉の歴史と概要からお話を聞かせてください。
鈴木壽治さん(以下、鈴木さん) 会津の奥座敷・東山温泉は、天平年間(729~749年)※である約1300年前、行基(ぎょうき)※によって発見したと伝えられ、奥羽三楽郷の一つに数えられる歴史ある名湯です。
※天平年間・・・奈良時代の最盛期にあたり、東大寺、唐招提寺などに残るその時代の文化を天平文化と呼ぶことが多いです。
※行基・・・飛鳥時代から奈良時代にかけて活動した日本の仏教僧。民衆へ仏教を直接布教することを禁止していた中、その禁を破って行基集団を形成し、畿内を中心に民衆や豪族など階層を問わず広く人々に仏教を説きました。ちなみに、庶民から人気のあった行基が発見したとされる開湯伝説は全国に数多く残っています。
江戸時代には、会津藩23万石※の御用達の湯治場として栄え、会津若松の奥座敷として発展しました。もともと東山温泉は「天寧寺の湯」と呼ばれ、お寺から湧いた温泉でした。藩主や藩士もたびたび湯につかり、現在の東山温泉に発展したとのことです。
※会津藩・・・福島県会津地方を中心に治めた藩。
また会津民謡「会津磐梯山(ばんだいさん)」※に登場する小原庄助(おはら しょうすけ)※ゆかりの温泉といわれています。
※会津磐梯山・・・福島県会津地域に伝えられる民謡。郡上おどり、阿波おどりとともに、日本三大民踊の一つにも数えられます。
※小原庄助・・・福島県会津地方の民謡「会津磐梯(ばんだい)山」に登場する人物。朝寝・朝酒・朝湯好きで財産をつぶしたという伝説がある。
東山温泉には、小原庄助のモデルとなった人物が利用したお宿があったといいます。ちなみに、小原庄助は一説には会津藩士といわれ、東山温泉の「瀧の湯」にも訪れた言い伝えもあるとのことです。(実在を含めて諸説あります)
他にも歴史に名を残した方が多く、東山温泉を訪れています。
※豊臣秀吉の奥州仕置き・・・小田原征伐後に東北を平定することにより、豊臣秀吉の天下統一事業は完了します。会津に進軍した折、東山温泉につかったと思われます。
※横光利一・・・日本の小説家・俳人・評論家。川端康成とともに新感覚派として大正から昭和にかけて活躍しました。代表作品に『機械』などがあります。
※大山捨松・・・大学を卒業して学士号を得た最初の日本人女性。元老となった大山巌の妻としての立場を通じ、看護婦教育・女子教育への支援に尽力しました。ちなみに、『NHK大河ドラマ 八重の桜』にも登場する人物です。
与謝野晶子や竹久夢二のような文人や画家から愛された理由は、ひなびた温泉地だからこそ長い間滞在できることがあります。
人口約11万人の会津若松市の中心地、会津若松城※から車でわずか10分程度の便利な場所に、これだけの規模と歴史、美しい自然を豊かな温泉地は他に類を見ません。
※会津若松城(鶴ヶ城)・・・福島県会津若松市にある城跡。現在の天守等は復元であり、若松城跡として国の史跡に指定されています。
特に強調したい点は、芸妓(げいぎ)さんが15名ほどおり、酒宴に花を添えています。ここにいらっしゃる芸妓さんはかつら髪で和服を着こなし、伝統的な踊りを行い、三味線を弾き、太鼓をたたいてお酒の座の取り持ちを行っています。
綾瀬はるかさんの会津まつり参加に期待
──『NHK大河ドラマ 八重の桜』で主演をつとめた女優の綾瀬はるかさんも、時折いらっしゃるとうかがいました。
鈴木さん そうですね。時々、耳にします。秋には会津まつり(2023年は9月22日~24日)が行われますが、今年も綾瀬はるかさんに来ていただきたいですね。
綾瀬はるかさんは、『八重の桜』で山本(新島)八重役を演じて以来、会津に対して大変心をくだいていただいています。
毎年会津弁でご挨拶され、撮影当時の衣装を身にまとい参加して下さり、感謝しております。
国の文化財登録の木造旅館が人気
──次に温泉周辺のホテルや旅館はどのような雰囲気ですか。
鈴木さん 国の文化財に登録され、明治・大正・昭和と建物を木造で磨き上げてきた「向瀧」さんが有名ですね。ほかは近代的なコンクリートのお宿さんに変わっていきました。
湯川という川沿いにホテル・旅館が建ち並び、数寄屋造りの建物や射的場など昔ながらの温泉情緒も漂います。
もともと高度成長時代の温泉ブームの時は34~35軒ほどホテル・旅館はあったのですが、現在、会津東山温泉観光協会に登録されているのが14軒、されていないのが2軒です。
会津東山温泉観光協会も同じく川沿いにあり、滝の音に風情があると言われる方もおります。事務所も窓を開けると滝の音が聞こえます。
「庄助の宿 瀧の湯」もありまして、先ほどから話しました小原庄助ゆかりの宿ともいわれています。またすぐそばに「伏見ヶ滝」という名瀑(めいばく)があるため、お宿さんの屋号も「瀧の湯」に変更しました。
東山温泉には上流から「雨降り滝」「原滝」「向滝」「伏見ケ滝」と4大滝があるためか、屋号には「瀧」とつけることが多く、「向瀧」「瀧の湯」のほか「原瀧」を屋号とされるお宿さんがあります。
温泉と仕事の両方を楽しむワーケーションに注力
──温泉を楽しみつつ、働くというワーケーション※にも力を入れているようですね。
鈴木さん 東山温泉は大小さまざまなタイプの旅館ホテルがございます。お客様の好みやご予算でご宿泊先を選べるのも東山温泉の特徴と言えます。
※ワーケーション・・・「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語。働き方改革と新型コロナウイルス感染症の流行に伴う「新しい日常」の奨励の一環として位置づけられる。しかし、ネットセキュリティ面や施設での課題も多いのが実情。
ワーケーションプランでご宿泊のお客様限定で、指定旅館ホテルのロビーやワークスペースのWi-Fi環境をご利用いただけるようになりました。さらに日帰り温泉もご利用いただけます。
座敷でのワーケーションはつらいこともありますし、料金的・ネットセキュリティにも課題があります。それでも、気分転換に場所を変えて仕事も温泉も楽しめるプランかと思います。
会津の馬刺しは力道山が広めた!?
──会津でのグルメの特徴はいかがですか。
鈴木さん 馬刺しというと熊本県を思い出される方が多いでしょう。しかし、福島県はとりわけ、会津若松や喜多方などの会津地方の馬刺しの食文化も負けておりません。
全国馬肉生産量は熊本県に次いで福島県が2位です。
熊本県の馬刺しは脂身が入ったものを好まれますが、会津地方の馬刺しは、「赤身肉」を珍重しています。食べたことがない方は、「え!?」と驚かれますが、食べると癖になる味です。
馬を食用にしていた習慣は、古来から存在し、軍馬や農耕馬の亡きがらの処分に煮炊きして食料とされていたと思われます。詳しい発祥は定かではありません。
現在会津では醤油、ニンニク辛子味噌をつけて食べるのが一般的です。この馬刺しの食べ方は、力道山※が始めたと言われておりますが、それ以前に生食がなかったのかは疑問が残ります。
※力道山・・・日本プロレスの父。日本プロレスを設立し、シャープ兄弟が外国から呼び、昭和30年代には全国民の支持を受けて大ブームを呼びました。力道山の死後日本のプロレス界を支えたジャイアント馬場、アントニオ猪木の両巨頭は彼の弟子です。
私は今の段階で、会津地方でこれだけ馬刺しが広まったことについて諸説あると考えています。
またB級グルメでは、ソースカツ丼が人気です。「卯之家」「よしのや食堂」で提供されています。どちらの店も定食をやっており評判は上々です。よく観光客のお客様も食べにいらっしゃいます。
さらに、福島県は喜多方ラーメンも有名ですが、会津若松市内にもラーメンの店舗がいくつかあります。ラーメン好きの方は、「喜多方でのラーメンはこの店で決まり」「会津若松のラーメンはここがいい」といろんな意見を寄せています。
──福島県が酒どころで、とりわけ会津地方に酒蔵が多く、地酒好きにはたまらない地域ですね。
鈴木さん 全国規模の鑑評会である全国新酒鑑評会※は、2020年に新型コロナの影響で金賞を決める最終審査が中止されましたが、福島県は2013年から9回連続で金賞受賞数日本一を達成しています。
※全国新酒鑑評会・・・1911年に始まり、現在も続いている日本酒の新酒の全国規模の鑑評会です。
会津の地酒は東京あたりからいらっしゃれば、銘柄にこだわらず何を飲んでも美味しいはずです。
荘厳な雰囲気の会津藩松平家墓所
──東山温泉付近での観光地はどのようなところがあるでしょうか。
鈴木さん 東山温泉から車で5分のところに、院内御廟(国史跡 会津藩松平家墓所)があります。東山温泉に近い広大な森の中にあり、規模の大きさを見ても荘厳な雰囲気があります。
本堂やお寺があるというのではなく、日光東照宮のようなきらびやかな建物はありません。管理も院内の集落の方に任されていました。しかし高さ5mの墓石があり、規模的には大きいです。
初代保科正之公※の墓は猪苗代町の土津神社(はにつじんじゃ)に祀られておりますが、2代正経公から9代容保公までの墓はこちらで祀られております。
※会津藩祖・保科正之公・・・江戸幕府初代将軍徳川家康の孫、二代将軍秀忠の子にあたる。3代将軍・徳川家光の異母弟で、家光と4代将軍・家綱を輔佐し、幕閣に重きをなした。将軍の「ご落胤」でもあります。
注目すべきは神道での弔いがなされている点です。その近隣には、会津武家屋敷という施設があり、3~4km離れていますが、白虎隊※で有名な飯盛山※があります。
※白虎隊・・・戊辰戦争の一環である会津戦争に際して、会津藩が組織した、武家男子を集めた部隊です。
※飯盛山・・・福島県会津若松市の中心部から少し東側にある標高314mの山。白虎隊士の自刃の地として知られています。
福島県南会津にある「大内宿」は、江戸時代に会津若松市と日光今市を結ぶ参勤交代の重要な道の宿場町として栄えました。
現在も江戸時代の面影そのままに茅葺屋根の民家が街道沿いに建ち並び、この景観を引き継ぐために店舗兼住居として生活しています。この大内宿も見どころですが、実は昔に新道が出来て忘れ去られていた地域なのです。
建物もなにからなにまで残っていて、再評価されました。日の目を見ていない時は、さびれていた地域だったようです。さらに足を延ばせば、猪苗代湖もあります。
バスや車を利用すると、他にも「会津若松城」など観光名所が集中しているので、修学旅行で観光しやすい場所です。
4年ぶりに「お湯かけ祭り」復活
──夏にかけてなにかイベントはありますか。
鈴木さん 東山盆踊りを以前は毎年開催していましたが、諸事情で中止になり、今は「お湯かけ祭り」を8月5日に実施しました。
地元温泉街の若衆・芸妓衆や地元の子供たちが、神輿を担ぎ温泉街を練り歩きながら、各宿に宿泊しているお客様から温泉の湯を浴びせかけてもらうお祭りで、縁起物の湯銭もまかれます。4年ぶりの開催です。
──観光における地方創生の役割は大きいと考えていますがいかがでしょうか。
鈴木さん 地方創生は地元自治体でも取組んでいますが、思うように進んでいないと考えています。
地方創生の目的としては人口増ですが、実際には減っているのが実情です。会津若松市としては「スマートシティ会津若松」の推進を掲げ、ICT(情報通信技術)や環境技術などを活用し、安心して快適に暮らすことのできるまちづくりを進めています。
国のデジタル田園都市国家構想交付金を活用し、会津大学などと連携した人材育成がうまく行けばと期待しているところです。
また東山温泉は、旅館協同組合がありませんので設置を進めるとともに、名称の商標登録も含めていろいろと活動していきたいですね。
会津東山温泉観光協会
〒965-0814 福島県会津若松市東山町湯本滝ノ湯110
TEL:0242-27-7051
FAX:0242-28-8722