世界気象機関(WMO)の発表によると、2050年には世界の50億人以上が水の確保が難しくなると言われており、2023年の現在でも自由に水を使用できない国は多数存在します。
とはいえ、いつでも好きなだけ水を使える日本人からすると、具体的にどのような状況に陥るかはイメージしにくいかもしれません。
しかし実は、水不足は日本も陥る可能性がある重大な問題です。世界はもちろん、日本でもさまざまな取り組みが推進されていることからもわかる通り、多くの人々が一丸となって立ち向かわなければなりません。
今回の記事では、水不足の現状や水資源が少ない具体的な国、水不足の原因、取り組みなどについて解説します。
そもそも「水不足」ってどういう状況?
水不足とは、人々の生活に必要な水資源が不足している状態を指します。
生活に必要な水資源としては、飲料水だけでなく、作物を耕す水や洗濯に使う生活用水など、幅広いものが当てはまります。
水不足の詳しい原因は後述しますが、主な要因として「人口増加」が挙げられるでしょう。
世界の人口は、2015年時点で約73億人です。2050年には97億人に達すると言われており、人口が増加すれば水の需要も高まるため、より水不足が加速します。
とはいえ、日本は欲しいときに水を使えるため、水不足について現実味がないかもしれません。
確かに地球は水の惑星とも呼ばれており、星全体の「2/3」が水で構成されているため、数字だけを見ると水不足を身近に感じにくいです。
しかし2/3の中で、人が利用しやすい淡水(塩分を含まないもの)は、2.5%程度しかありません。もちろんすべての淡水を利用できるわけではなく、実際に使えるのは地球全体の「約0.01%」です。
上記の数値を踏まえると、日本であっても水不足問題は決して他人事ではないとわかります。
水不足には2種類存在する
水不足は以下の2種類に分けられます。
慢性的な水不足は、主に途上国や乾燥地帯で発生します。干ばつや水道設備が整備されていないなど、現在進行形で水不足が問題となっている地域です。
潜在的な水不足は、日本を含めた先進国で起こりうる問題です。日本は水道設備も整っており、他国との水紛争もないため、現時点では問題が発生していません。
しかし日本は、坂道などの傾斜が急な地形も多いことから、淡水である雨水を貯蔵しにくいです。
さらに、2000年代に突入してから一人当たりの水使用量が2倍以上に増えています※。貯水に対して日本人の利用量が増えているため、じわじわと、水不足が進行する可能性は高いでしょう。
※引用元:国土交通省「水資源の利用状況」
水不足の4つの原因
上記で解説したように、日本にとっても水不足は他人事ではありません。次に、水不足の具体的な原因を見てみましょう。
原因1.人口の増加
水不足の1つめの原因は、人口の増加です。
世界全体で見ると人口は増え続け、2050年には、約97億人に達する見込みです。
地球の総水量が限られている中で利用者が増えれば、水不足に陥る地域は拡大します。
実際、2020年時点でも世界の「約20億人」が安全な飲み水を使えていません。今後人口が増えれば、より多くの人が困ることは確実です。
原因2.水需要の増加
水不足の2つめの原因は、水需要の増加です。
水需要とは、人が生活するうえで必要な水量のことです。安定した水の供給には、水需要を満たせる水量を確保しなければいけません。
2000年時点で世界の水需要は「3,600km3」でした。しかし2050年には、水需要が約55%増加すると見込まれており、このままでは世界の約40%が深刻な水不足に陥ります※。
※引用元:国土交通省「水資源問題の原因」
世界の総水量が変わらず、水需要が増えれば、水ストレス(水需要がどれほど足りないかを示す指標)の悪化は避けられません。
原因3.気候の変動
水不足の3つめの原因は、気候の変動です。地球温暖化による気候変動が起こっています。
真夏日・大雪の増加、集中豪雨、台風など
温暖化による気候変動は、降水量にも大きな影響を与えます。氷河も温暖化によって縮小し続けているため、利用できる水資源の流出は避けられません。
さらに日本では馴染みがありませんが、洪水や干ばつも世界中で発生しています。
2015年時点は「洪水152件」、「干ばつ32件」です※。こうした気候変動による影響は今後も続くと考えられており、世界の多くの地域で水不足が加速するでしょう。
※引用元:国土交通省「水資源問題の原因」
原因4.水をめぐる紛争
水不足の4つめの原因は、水をめぐる紛争(水紛争)です。
日本は島国であるため、水紛争とは無縁です。しかし、世界では水紛争が各地で起きています。
上記のような水の紛争が発生する原因は、主に以下の4つです。
※引用元:国土交通省「水資源問題の原因」
たとえば、日本と近い中国の漢江(かんこう)は、韓国と北朝鮮がダム建設による環境問題で対立しました。
ナイル川周辺は、ダムでの貯水を開始したいエチオピアが、下流に位置するエジプトやスーダンと対立しています。
対立国 | 紛争地 | 原因 |
---|---|---|
アメリカ メキシコ | コロラド川 | 水の過剰利用と汚染 |
アルゼンチン ブラジル パラグアイ | パラナ川 | ダム建設と環境 |
エジプト スーダン エチオピア | ナイル川 | ダム建設と水配分 |
インド パキスタン | インダス川 | 水の所有権 |
イスラエル ヨルダン レバノン など | ヨルダン川 | 水源地域の所有 水の配分 |
※引用元:国土交通省「水資源問題の原因」
さまざまな国が、水紛争に巻き込まれています。もしかすると、日本も将来的に水不足による何らかのトラブルに巻き込まれるかもしれません。
それでは水不足に陥っている国は、どこが挙げられるのでしょうか?次に、世界の水不足ランキングを紹介します。
世界の水不足ランキング
世界の水不足の国ランキングを紹介します。「水資源量が少ない順」に並べている点にご留意ください。
順位 | 国名 | 水資源量(km3/年) |
---|---|---|
1 | ナウル | 0.01 |
2 | クウェート | 0.02 |
3 | セントクリストファー・ネイピス | 0.02 |
4 | モルディブ | 0.03 |
5 | マルタ | 0.05 |
6 | アンティグア・バーブーダ | 0.05 |
7 | カタール | 0.06 |
8 | バルバドス | 0.08 |
9 | セントビンセント・グレナディーン | 0.10 |
10 | バーレーン | 0.12 |
11 | アラブ首長国連邦 | 0.15 |
12 | ドミニカ | 0.20 |
13 | グレナダ | 0.20 |
14 | カーボヴェルデ | 0.30 |
15 | ジブチ | 0.30 |
16 | セントルシア | 0.30 |
17 | アンドラ | 0.32 |
18 | シンガポール | 0.60 |
19 | バハマ | 0.70 |
20 | リビア | 0.70 |
21 | キプロス | 0.78 |
22 | パレスチナ | 0.84 |
23 | ヨルダン | 0.94 |
24 | コモロ | 1.20 |
25 | オマーン | 1.40 |
26 | イスラエル | 1.78 |
27 | イエメン | 2.10 |
28 | サントメ・プリンシペ | 2.18 |
29 | サウジアラビア | 2.40 |
30 | モーリシャス | 2.75 |
31 | レソト | 3.02 |
32 | ルクセンブルク | 3.50 |
33 | トリニダード・トバゴ | 3.84 |
34 | レバノン | 4.50 |
35 | エスワティニ(スワジランド) | 4.51 |
36 | チュニジア | 4.62 |
37 | デンマーク | 6.00 |
38 | 北マケドニア | 6.40 |
39 | プエルトリコ | 7.10 |
40 | エリトリア | 7.32 |
41 | アルメニア | 7.77 |
42 | ガンビア | 8.00 |
43 | 東ティモール | 8.22 |
44 | ブルネイ | 8.50 |
45 | バヌアツ | 10.00 |
46 | ジャマイカ | 10.82 |
47 | モーリタニア | 11.40 |
48 | アルジェリア | 11.67 |
49 | ボツワナ | 12.24 |
50 | モルドバ | 12.27 |
51 | ブルンジ | 12.54 |
52 | エストニア | 12.81 |
53 | チェコ | 13.15 |
54 | ルワンダ | 13.30 |
55 | ブルキナファソ | 13.50 |
56 | ハイチ | 14.02 |
57 | ソマリア | 14.70 |
58 | トーゴ | 14.70 |
59 | シリア | 16.80 |
60 | マラウイ | 17.28 |
61 | ベルギー | 18.30 |
62 | ジンバブエ | 20.00 |
63 | ブルガリア | 21.30 |
64 | ベリーズ | 21.73 |
65 | タジキスタン | 21.91 |
66 | ドミニカ共和国 | 23.50 |
67 | キルギス | 23.62 |
68 | リトアニア | 24.50 |
69 | トルクメニスタン | 24.77 |
70 | 赤道ギニア | 26.00 |
71 | エルサルバドル | 26.27 |
72 | ベナン | 26.39 |
73 | フィジー | 28.55 |
74 | モロッコ | 29.00 |
75 | アルバニア | 30.20 |
76 | ケニア | 30.70 |
77 | ギニアビサウ | 31.40 |
78 | スロベニア | 31.87 |
79 | ニジェール | 34.05 |
80 | アゼルバイジャン | 34.68 |
81 | モンゴル | 34.80 |
82 | ラトビア | 34.94 |
83 | ボスニア・ヘルツェゴビナ | 37.50 |
84 | スーダン | 37.80 |
85 | キューバ | 38.12 |
86 | セネガル | 38.97 |
87 | ナミビア | 39.91 |
88 | ソロモン諸島 | 44.70 |
89 | チャド | 45.70 |
90 | ウズベキスタン | 48.87 |
91 | 南スーダン | 49.50 |
92 | スロバキア | 50.10 |
93 | 南アフリカ | 51.35 |
94 | アイルランド | 52.00 |
95 | スリランカ | 52.80 |
96 | スイス | 53.50 |
97 | ガーナ | 56.20 |
98 | エジプト | 57.50 |
99 | ベラルーシ | 57.90 |
100 | ウガンダ | 60.10 |
101 | ポーランド | 60.50 |
102 | ジョージア(グルジア) | 63.33 |
103 | アフガニスタン | 65.33 |
104 | ギリシャ | 68.40 |
105 | 韓国 | 69.70 |
106 | 北朝鮮 | 77.15 |
107 | ポルトガル | 77.40 |
108 | オーストリア | 77.70 |
109 | ブータン | 78.00 |
110 | コートジボワール | 84.14 |
111 | イラク | 89.86 |
112 | オランダ | 91.00 |
113 | ホンジュラス | 92.16 |
114 | タンザニア | 96.27 |
115 | スリナム | 99.00 |
116 | ハンガリー | 104.00 |
117 | ザンビア | 104.80 |
118 | クロアチア | 105.50 |
119 | カザフスタン | 108.41 |
120 | フィンランド | 110.00 |
121 | スペイン | 111.50 |
122 | コスタリカ | 113.00 |
123 | マリ | 120.00 |
124 | エチオピア | 122.00 |
125 | グアテマラ | 127.91 |
126 | イラン | 137.05 |
127 | パナマ | 139.30 |
128 | 中央アフリカ | 141.00 |
129 | イギリス | 147.00 |
130 | アンゴラ | 148.40 |
131 | ドイツ | 154.00 |
132 | シエラレオネ | 160.00 |
133 | セルビア | 162.20 |
134 | ニカラグア | 164.52 |
135 | ガボン | 166.00 |
136 | アイスランド | 170.00 |
137 | ウルグアイ | 172.20 |
138 | スウェーデン | 174.00 |
139 | ウクライナ | 175.28 |
140 | イタリア | 191.30 |
141 | ネパール | 210.20 |
142 | フランス | 211.00 |
143 | トルコ | 211.60 |
144 | ルーマニア | 212.01 |
145 | モザンビーク | 217.10 |
146 | ギニア | 226.00 |
147 | リベリア | 232.00 |
148 | パキスタン | 246.80 |
149 | ガイアナ | 271.00 |
150 | カメルーン | 283.15 |
151 | ナイジェリア | 286.20 |
152 | ニュージーランド | 327.00 |
153 | ラオス | 333.50 |
154 | マダガスカル | 337.00 |
155 | パラグアイ | 387.77 |
156 | ノルウェー | 393.00 |
157 | 日本 | 430.00 |
158 | タイ | 438.61 |
159 | エクアドル | 442.40 |
160 | メキシコ | 461.89 |
161 | カンボジア | 476.10 |
162 | フィリピン | 479.00 |
163 | オーストラリア | 492.00 |
164 | ボリビア | 574.00 |
165 | マレーシア | 580.00 |
166 | パプアニューギニア | 801.00 |
167 | コンゴ共和国 | 832.00 |
168 | アルゼンチン | 876.24 |
169 | ベトナム | 884.12 |
170 | チリ | 923.06 |
171 | ミャンマー | 1,167.80 |
172 | バングラディシュ | 1,227.03 |
173 | コンゴ民主共和国 | 1,283.00 |
174 | ベネズエラ | 1,325.00 |
175 | ペルー | 1,879.80 |
176 | インド | 1,910.90 |
177 | インドネシア | 2,018.70 |
178 | コロンビア | 2,360.00 |
179 | 中国 | 2,840.22 |
180 | カナダ | 2,902.00 |
181 | 米国 | 3,069.00 |
182 | ロシア | 4,525.45 |
183 | ブラジル | 8,647.00 |
半数以上の国の水資源量が「100k㎥/年」に満たないことがわかります。
こうした世界の現状を受けて、世界の水不足解消に向けた動きが加速しています。
SDGs目標6の「安全な水とトイレをみんなに」ってなに?
上記のランキングで、世界には水不足に陥っている国が多数存在していることが分かりました。さらに世界の人口は今後膨らむので、現状の問題を放置し続ければ、水不足に直面する国は増加するでしょう。
こうした水不足による問題を解消するために、世界では以下のSDGs目標を掲げています。
目標6:安全な水とトイレを世界中に
持続可能な開発目標「SDGs」とは、2030年までに持続が可能で、よりよい世界を目指す国際目標です。
現在、世界の約20億人は安全な水が使えません。トイレが使えない人も5億人近くいます。
上記の目標では「2030年までに全ての人々が安全な水を安価で使える環境を整備する」を目的としています。
なお、SDGsの目標全17項目は以下の通りです。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロ
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs目標6を達成するための取り組み
SDGs目標6を達成するには、各国が協力して「排水の削減」「水の再利用」などの取り組みを進めることが不可欠です。もちろん日本も例外ではありません。
具体的には、世界中で以下のような取り組みが展開されています。
世界の取り組み
まず、世界で実施されている取り組みとしては、主に以下が挙げられます。
特定非営利活動法人 ウォーターエイドジャパン
ウォーターエイドは、水や衛生分野に特化して活動するNPO団体です。世界の26カ国で以下のような活動を展開しています。
- 水不足の根本原因の究明・解消
- 住民へのプロジェクト参加の推進
- 各自治体による水不足への対処能力の向上支援
- 井戸の掘削や衛生的なトイレの設置
ウォーターエイドは、ただ単に最新設備や仕組みを導入するのではなく、現地の人々が主体的に動けるシステム作りに重きを置いています。
確かに最新システムを活用すれば、短期的な水不足は解消されます。しかし、住民や自治体が主体的に問題解決へ乗り出さなければ、水不足を解消するシステムの長期的な運用は困難です。
具体的には、自治体に対して水質管理のノウハウを教育したり、住民と協力して各地域にベストな給水設備や設置場所を決定したりすることで、長期的な支援を提供しています。
warka water(ワルカウォーター)
warka water(ワルカウォーター)とは、結露を利用して大気中の水分から飲料水を抽出する仕組みのことです。
大きな塔の形をしており、メッシュ素材の生地に水分が付着し、タワー下部の漏斗に濾過された飲料水が抽出されます。エチオピアのドルゼ村で最初のタワーが建造され、カメルーンやハイチなどさまざまな途上国に広まっています。
ワルカタワーは、安全な水の確保はもちろん「現地で容易に建築できるか」という面も重視されたシステムです。
通常、水を濾過するには大規模なシステムを開発するイメージがあるかもしれません。
しかしワルカタワーは、竹など途上国の現地でも調達可能な素材で作られており、足場や工具を使わなくても組み立てることができます。
デザインも地元の景観や環境を損なわないように設計されているため、単なる「飲料水の確保」だけを目的にしていない点も魅力的です。
氷の塔
氷の塔は、インドのラダック地方で建築された、文字通り巨大な氷のタワーを指します。
ラダックはかつて、冬は雪に覆われた地域でした。しかし地球温暖化の影響もあり、雪が積もらなくなっています。
ラダックでは、農業をはじめとした生活用に雪解け水を使っているため、雪が積もらないというのは死活問題です。
上記の問題を解消するために生み出されたのが、氷の塔です。垂直に近づけるように氷のタワーを作ることで、太陽が雪と接する面を少なくし、溶けるスピードを遅めます。
2015年に製作された氷の塔は夏までに多くの雪解け水を生み出し、インドをはじめ世界でも数多くの氷の塔が作られました。日本でも民間企業によって、みなとみらいに氷の塔が活用されています。
日本の取り組み
日本は、主に以下の取り組みが推進されています。
日本コカ・コーラ株式会社
日本コカ・コーラ株式会社では、以下3つの軸を柱として目標6の達成に向けて取り組んでいます。
- 工場で利用される水使用量の削減
- 工場の製造過程で排出される水の再利用
- 水源域における水源涵養(自然と養成されるように作ること)
具体的に、自社独自の基準に沿って水質を厳しく管理し24時間体制で取水量を管理したり、水源域にある県との水源保全に関する協定を締結したりしています。
工場でも最新設備を導入して「水使用量の30%削減」を目指すなど、地域とも協力しながら幅広い観点で水不足の解消に取り組んでいます。
サントリーホールディングス株式会社
サントリーでは、以下の3点を軸として、水を無駄なく活用する取り組みを行っています。
- 節水活動(水の3R。工場で使う水を可能な限り少なくする)
- 排水管理(厳しい自主基準をもとに、水を処理してから自然に放流する)
- 品質保証(独自機関での検査をプラスし、今まで以上に水の品質を担保する)
水の3Rは、製造工程で利用する水を「清浄度」に応じて5段階に分類しています。
5段階に分類することで、一度使った水を段階的に別の用途でも活用できる仕組みが整っています。仕組みを整えたことで、循環機能の高さは業界トップレベルです。
また、雨水も貯蔵して植栽の育成に活用するなど、自然の水を有効活用する取り組みも推進しています。
富士フィルム
富士フイルムは、もともと写真フィルムを主力製品としている会社です。
写真フィルムを生産する際は大量の水が必要となるため、SDGsが盛り上がるよりも早く、創業当初から水資源に配慮した活動を行ってきました。
例えば、廃水浄化システムの導入によって、廃水を設備冷却水として再利用し年間30,000トンもの水量を削減しています。さらに、雨水も製造用水として活用できるよう、海外の工場を起点として雨水の回収利用も積極的に推進中です。
各地域の水使用量をもとに水リスクを独自で採点しマップ化して管理するなど、創業当初から一貫して水資源保全活動に取り組んでいます。
株式会社LIXIL(リクシル)
株式会社LIXILでは、これまでの活動で培ったトイレや水栓など水回りのノウハウを活かし、「2025年までに1億人の衛生環境を改善する」という目標を掲げ活動しています。
活動の例としては、途上国向けの簡易式トイレ「SATO」ブランドの開発が挙げられます。
途上国では水道管設備が遅れているため、日本のような水洗トイレを設置できないという問題がありました。
SATOのトイレは、従来と比較して簡単に設置可能であり、少量の水で洗浄できる仕組みです。開閉弁がついているため、排泄物を流す際の匂いが気になりませんし、ハエなどの害虫が増えるのも防止できます。
上記のような恒常的な活動以外にも、2022年12月末まで実施されていた「みんなにキレイをプロジェクト」などの寄付も行っており、自社の技術を生かし積極的に水問題に取り組んでいることがわかるでしょう。
【まとめ】未来のために、私たちにできること
2023年時点で、世界の多くの国で水不足の問題が発生しています。現状、日本では不自由なく水を使えていますが、今後の人口増加や温暖化の行く末によっては、徐々に水不足へ陥る可能性もゼロではありません。
将来的にも水を安全に使い続けられるよう、今回紹介した取り組みも参考にしながら、私たちにできる対策から始めていきましょう。
【もっと知りたいあなたへ!】用語解説
SDGsが取り組む水不足の問題を詳しく知るには、以下の用語の理解も欠かせません。
SDGsのみならず、水問題全体を考えるうえで上記の用語を知っておくことは重要なので、ぜひ押さえておきましょう。
水ストレス
水ストレスとは、日常生活において一人当たりの水使用量がどの程度であるかを示す指標のことです。
AWR(後述)の数値をもとに定められており、AWRの数値が低いほど「水ストレスが高い=日常生活で水を自由に使えていない」ということを表しています。
世界では20億人近くが水ストレスに曝されていると考えられており、将来的な水不足に陥るリスクを抱えた人を含めると36億人に達すると言われています。
AWR(Annual Water Resource)
AWR(Annual Water Resource)とは、上記の水ストレスの度合いを示す数値を指します。「1人当たりの年間に使用可能な水資源量」を英訳した言葉です。
AWRの数値が低いほど、「一人当たりが使える水量が少ない=水不足が深刻」ということを表しています。AWRの数値目安は以下の通りです。
- 最低基準:1,700㎥
- 水不足の状態:1,000㎥を下回る
- 絶対的な水不足:500㎥を下回る
バーチャルウォーター
バーチャルウォーターとは、現在食料を輸入している国が「食料を自国で生産」した場合、どの程度の水が必要になるかを算出した指標のことです。
例えば、牛を輸入している国が自国で飼育した場合、1kgあたり「約20,000倍」の水が必要と言われています。
つまり「食料を輸入する=水を輸入する」と言い換えられるため、仮に輸入取引が終了した場合、その分の水を自国で確保しなければならないのです。
日本は現在、約6割の食料を輸入に頼っています。万が一、食料を自国で生産する必要が発生した場合、より多くの水量を使うため水不足に陥る可能性は捨てきれません。
ウォーターフットプリント
ウォーターフットプリントとは、商品やサービスの一連の流れ(原材料の栽培・生産・製造・輸送・消費・廃棄など)において必要な水量を測定する指標のことです。
上記のバーチャルウォーターは「食料の輸入を自国で賄った場合の想定水量」を指していますが、ウォーターフットプリントでは、モノやサービス全般に使われた総水量や消費場所について分析しています。
「ウォーターフットプリントの要素の一つとしてバーチャルウォーターがある」と把握しておきましょう。
この記事の執筆者
内野 マナト
「ユーザーニーズを徹底的に満たせる記事を制作する」がモットーのWebライター。水に関する記事はもちろん、マーケティング・ビジネス・転職・M&A・葬儀・教育等、幅広いジャンルで豊富な執筆経験を持つ。