鹿児島のお酒といえば、薩摩焼酎を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
薩摩焼酎であれば、2012年にパリコレに出展し、その味を高く評価された「大海酒造」をご存知の方もいらっしゃることでしょう。
大海酒造では、素材である芋や麹などはもちろんのこと、水にも強いこだわりを持っています。垂水の温泉水「寿鶴」で造られる焼酎は、これまで独特の香りで敬遠されがちだった薩摩の芋焼酎に革命をもたらしました。
今回は大海酒造株式会社の取締役・山下正博さんに、焼酎造りにおける水へのこだわりやおいしい飲み方について、伺いました。
大海酒造株式会社
担当者 山下正博さん
取締役
地域の味と技が集結
——まず、これまでの大海酒造の歴史を聞かせていただけますか?
山下正博さん(以下、山下さん) 1970年前後に、鹿児島県・鹿屋市内の規模の小さな蔵元が集まって、共同事業を作る動きがありました。焼酎の酒蔵だけでなく、いろんな業種が事業を共同化していた時代。
それで、9つの蔵元が集まってできたのが、大海酒造。1975年のことです。
——その頃、焼酎造りにおける「水」に対する意識はどんな感じでしたか?
山下さん 水の重要性っていうのは、日本酒の蔵であれば、必ず言われますよね。日本酒の蔵と焼酎の蔵では、水に対する認識は全く違うと思います。というのも日本酒は清酒※で、焼酎は蒸留酒※。
水はよければいいに越したことはありませんが、日本酒と焼酎はそもそものタイプが違うんですね。焼酎の蔵では、実は30年前まで水について、そこまで話題にはなっていなかったんです。
もともとある、蔵で使われてきた水を使うのが当たり前。特に意識はされてはいませんでした。
※清酒・・・米、米こうじ、清酒かす、その他政令で定める物品、水を原料として発酵させて、こしたもの。または清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。参考:国税庁ホームページ
※蒸留酒・・・ 醸造酒、その半製品、醸造酒の副産物(粕)、その他アルコール含有物を蒸留して造った酒類。 具体的には焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウオッカなどが該当する。参考:国税庁ホームページ
温泉水「寿鶴」と運命の出会い
——垂水の温泉水、「寿鶴」と出会ったきっかけは?
山下さん 30年ほど前、鹿児島でNO.1と言われていた杜氏について修行していました。焼酎は蒸留するので、そこまでに水の質にこだわらなくてもよかった。
ですが、できた焼酎は「和水」と言って、原酒のアルコール度数を25度まで落とさなくてはいけない工程がある。それまで和水に使う水は、蔵の水を当たり前に使っていたんですが、私は和水に使う水こそ、いい水にした方がいいんじゃないかって考えたんです。
そこで行き着いたのが、垂水の温泉水、「寿鶴」でした。
——どうして「寿鶴」を焼酎に使ってみようと思ったんですか?
山下さん 「寿鶴」の販売会社が、付近の住民の方に水を無料開放していまして、「寿鶴」に関するいろんな話を聞きまして。私自身も試飲させてもらったし、私の周りの人たちにも試してもらいました。
「寿鶴」を飲んでいる人は、キズやケガの治りが早いと感じていたり、お年寄りでも元気だったり。さらには病院に入院している患者さんも飲んでいる方が多くいらっしゃって。
女性ではお化粧のノリが違うとか、産後の体力回復が早かったとおっしゃっている方もいらっしゃいました。飲むだけじゃなく「寿鶴」をたらしたところは、ツルツルになるなど、美肌効果があると。
私は見えるものしか信じない主義。これだけいろんな人にいい効果を与えているなら焼酎に使えば、体にいい焼酎ができそうだと。
これからの焼酎は、おいしいのはもちろんですが、健康になれるようなものでなければならない。それと、当時の芋焼酎というとにおいにクセがあって、おじさんが飲むお酒ってイメージでしたよね。焼酎のマーケットの中心は男性で、女性からは見向きもされていなかった。
おいしくて健康効果も見込める。これからは、女性たちに選ばれるような商品を造っていかないと焼酎の蔵元は生き残れない。
和水としてだけでなく、焼酎の製造に使う水そのものを「寿鶴」にすれば、これまでの芋焼酎のイメージを変えられる!と思いました。そこから7か月間、「寿鶴」の会社に毎日通って、時に「寿鶴」に関するプロモーションをお手伝いしながら、使用許可をいただきました。
こだわりの「前割り」焼酎への思いとは
——ホームページ上でも「前割り」を推奨していますが、「寿鶴」を使った前割り焼酎について教えてください。
山下さん 弊社で作っている前割りの焼酎は全部で、3種類。「Umi15」、「Kugilla13」と「薔薇の贈りもの14」。
前割り焼酎とは、焼酎と水を好みの割合で混ぜて、数日間寝かせた焼酎のことです。飲む直前に割るよりも、数日寝かせることで、焼酎と水がなじんで、口あたりがまろやかになります。
なぜ前割り焼酎を造ろうと思ったのかというと、2011年に東日本大震災がありましたね。福島第一原発問題で、日本の食や水は安全か?と取り沙汰されました。
焼酎は、水やお湯で割るなど、水を多く使います。ロックの氷ももともとは水ですよね。そこで、水を準備する手間を省いて、安全で安心、かつすぐに飲めるような焼酎があればいいなと思いました。これまでよりももっと気軽に、かんたんに焼酎を楽しんでほしいと思ったんですね。
——「薔薇の贈りもの14」は、パリコレでも高い評価を得たと聞いています。
焼酎なんて飲んだことがない、普段はシャンパンというパリのセレブや海外の方にも、「薔薇の贈りもの14」の後味がいい、バラの香りがほのかにすると非常に受けがよかったですね。
世界で初めてのファッションと焼酎のコラボレーションは、出るまでに本当にいろんなことがありました。準備期間が36日間と短く、いろんなところに申請出したり、許可を取らなくちゃいけないし、困難の連続です。ありとあらゆることを想定して行きました。
ピンチがあっても、周りの方たちが私たちの夢を応援してくれて、結果は大成功。夢を抱くことの大切さを実感しました。
伝統を守るためには革新がないとダメなんです。常に変えていかなきゃいけない。止まっちゃいけないと改めて思いましたね。
焼酎初心者でもおいしく飲める、おすすめの割り方
——焼酎初心者におすすめの飲み方はありますか?
山下さん 私のおすすめは有機玉露茶で割るパターン。有機玉露茶のティーバックをひとつ、ボトルに入れて水出しします。すぐにお茶が飲めるうえに、おいしい。有機玉露の茶葉は、鹿児島でこだわりのお茶の茶葉を生産している方がいて、そこの茶園のお茶がおすすめです。
——大海酒造さんからはお茶の焼酎も販売されていますね。
山下さん 「茶房大海庵」ですね。パッケージもおしゃれでしょ。志布志市にある「和香園」という茶園の茶葉を使っています。有機肥料を使い、なるべく農薬に頼らないお茶栽培をしています。「茶房大海庵」もおいしいですよ。
有機玉露のお茶と弊社の芋焼酎「海」を割るとまたいいんですよ。お茶で割るなんて、焼酎の味や風味の邪魔をするのでは?と思うところですよね。「海」を有機玉露茶で割っても、焼酎もお茶も互いの味を邪魔しないんですよ。
水も「寿鶴」で有機玉露を水出しすれば、さらにお茶も焼酎のよさも引き立ちます。
「寿鶴」のようないい水は、おいしくて体にいいだけでなく、素材のよさを引き出すんですよ。有機玉露のお茶割りを焼酎初心者の方にもぜひ、試して欲しいですね。
革新の蔵として、ファンを作る
——大海酒造としての、今後の展望をお聞かせください。
山下さん うちの杜氏とも話をするんですが、私たちが作ってきたマーケットはもう30年たってしまった。この30年で、焼酎の認知度は高まった。ところが、今まったく焼酎を知らない、飲んだことがないって方が結構いらっしゃるんですよ。
だから、今もう1回やるべきことは、私たちが30年前にやったように、新たな顧客を作るために、もう1回努力をすべきじゃないかなと。
できたら作り手である杜氏や私たちがちゃんと全国に行って、お客様と膝を交えて話をしながら、思いを伝えていく。私たちの仕事は、もの売りじゃなくてファン作りですよね。
新商品のリリースも近々あるんですよ。今度はりんごや洋梨のような香りを楽しめる芋焼酎。味を想像するとどんな焼酎なのか楽しみでしょう。
これまでの焼酎を大事にしながら新しい焼酎も造って、できれば対面で、コツコツとファンを増やしていけるような、そんな活動をしていきたいですね。
大海酒造株式会社
〒893-0016 鹿児島県鹿屋市白崎町21番1号
TEL:0994-44-2190
FAX:0994-40-0950