NPO法人 海さくらは2005年から、神奈川県の江の島で「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い!」をモットーに18年間、清掃活動を続けています。
江の島の海に「かつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくるくらいキレイにする」という目標をかかげられています。
今回は、海さくらの理事長である古澤純一郎さんに活動内容などの話をうかがいました。
NPO法人 海さくら
古澤 純一郎さん
代表・理事長
NPO法人 海さくらを立ち上げた経緯
――まず、海さくらを立ち上げられた経緯からうかがいます。
古澤純一郎さん(以下、古澤さん) 私は船具屋の4代目の長男として生まれ、小さいころから川や海にお世話になっていました。
大学では体育会テニス部におり、多くの仲間達と汗を流し、熱く熱く勝利にむかって昼夜をともにしてきました。何か自分が本気で熱くなれるものを探しておりました。
ちょうど娘も生まれたタイミングもあり、私が大好きな江の島の海をキレイにする活動を2005年に開始したのです。
海面に夕日が沈むときに、海面がピンク色にキラキラと光る瞬間があります。私はその光る瞬間を、「海さくら」と名付けました。
「海さくら」が生まれる美しい瞬間を見つめていましたが、足元はゴミだらけでした。
さくらの花びらを足元までキラキラさせたいということで、このNPO法人の団体の名称も「海さくら」としたのです。
活動最初、テニス部で活動し、体力には自信があったことから、一人で海のゴミを全て拾ってやろう!と思っていました。
甘く見ていました・・・。
ゴミの量が多く、とてもひとりでは無理だとすぐわかったのです。
活動には目標が大切です。2007年ごろに、江の島の海にはむかし、「タツノオトシゴ」が生息していたことを知りました。
そこで「タツノオトシゴ」が戻ってくるような、美しい海にしたいという目標を立てました。
みんなが楽しめる海になることを願う
――立ち上げ当時の反響はいかがでしたか。
古澤さん 今と違って、当時はSDGs※(持続可能な開発目標)など環境への取組みはまだまだ大きな声にはなっておりませんでした。
※SDGs・・・世界中にある環境問題・差別・貧困・人権問題という課題を、世界で2030年までに解決する計画・目標のことです。2015年9月の国連サミットでは、全会一致で採択されました。
また、私は今も当時も家業を続けているにもかかわらず、「若い時は、ゴミを拾う時間があったら、仕事をしろ」ともいわれたことがあります。
しかも世間的な関心も低く、ゴミを拾う方も少なかったので、当時は大きなビンやカンなども江の島に落ちていました。
――どんな活動をしているのですか?
古澤さん まず、「海さくら」の活動の心臓部は、江の島の海にかつて生息していたタツノオトシゴが戻ってくるような美しい海を目指して、ゴミ拾いを中心に行っています。
とにかく、現場に来てもらうことを大切にしています。
「どすこいビーチクリーン」にはお相撲さん、「お笑いビーチクリーン」ではお笑い芸人を。
さらに、「海さくら」が生み出した、海の平和を守り海のピンチを人々に伝えるヒーロー「海洋戦士シーセーバー」などで楽しくゴミ拾いをしてもらうようにつとめています。
1回でも現場に来て、ゴミ拾いをしてもらうと、参加者の皆様の感情が大きく変わってくることに気が付きました。
今は、「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い!」をモットーに、みんなの力で海はきっとキレイにできると信じています。私は、みんなが楽しめる海になることを願っております。
「湘南ベルマーレ」などの地元チームと連携
――心臓部以外の活動としてはどのような活動をされていますか
古澤さん 湘南海岸のゴミの7~8割は、街を通ってくる境川・引地川・相模川から運ばれてきます。
海をキレイにするためには、街もキレイにしなければならないのです。
今でこそ、イベント時では400~2000人も来ますが、人に来ていただくことは本当に大変です。
サッカー場などには、常に多くの人達が来場します。そこで、湘南ベルマーレの選手をお呼びしてゴミ拾いをしているときに、湘南ベルマーレの当時の社長と意気投合。
サッカースタジアムはおよそ1万5000人の観客が入りますので、その場内の大型スクリーンで、「ゴミは街・川からやってくる」ことを伝えさせてください!と、お願いしました。
さらにホームゲーム終了後、毎試合ごみ拾いをしませんか?ともお願いしました。
数年に渡る湘南ベルマーレさんとのゴミ拾いをしていたこともあり、快く承諾していただいたのです。
チームの協力を得ることで、多くの皆様に海ゴミが街・川からやってくることを伝えられました。
さらに試合終了後にゴミ拾いをして街がキレイになり、ゴミ拾いをしている姿をみることで、気づきにも繋がります。
次に、ゴミ拾いなどをしている人としたい人を結びつけるゴミ拾い・環境ポータルサイト「BLUE SHIP」を運営、現在は4000団体の方が登録されています。
今までゴミ拾い団体や環境イベントを簡単に探せるサイトがありませんでした。また、ゴミ拾いに関係する団体を作りたいけれど、ホームページでの告知もお金がかかるため、断念される方もいました。
さらには、団体同士でコラボレーションしたいという声もあったのですが、団体を探すのが難しいなどの課題もあったのです。
「BLUE SHIP」が誕生したことにより、今あげた課題を解決できるようになり、より海がキレイになることを願っています。
楽しいイベントで現場に来てもらう工夫も
――「目指せ!日本一楽しいゴミ拾い!」をより深堀していただけますか。
古澤さん 結局は、街の人に活動内容を伝えていかなければ、海はキレイになりません。川まわりや街の排水溝から海に向けてゴミはやってきます。
繰り返しになりますが、一度でもゴミ拾いを体験すると他人事から自分事になりますから、まずは現場に来てもらうことが大切だということがわかってきました。
「ごみ拾いに来て下さい!」と言ってもなかなか人は、来てくれません(笑)
その気持ち、よくわかります。自分もそうでした。
現場にきて、「体験・体感をしていただきたい!!でも、ゴミ拾いしよう!!」では、人は来てくれないわけです。
なのでまずは、少しでも楽しくゴミ拾いができるように、トングを青くしたり、ゴミ袋をかわいくしたり工夫しました。
それとともに、楽しいイベントを作り続けております(笑)
私も楽しいことが大好きなのでこれらのイベントなどが実って、多くの方が参加できるようなゴミ拾いとなりました。
特撮TV番組「海洋戦士シーセーバー」をtvk(テレビ神奈川)で放送
――次は個別のイベントをうかがいます。tvk(テレビ神奈川)で、4月から海の平和を守り、海のピンチを人々に伝える、特撮TV番組「海洋戦士シーセーバー」が放送開始されました。
古澤さん 日本財団は2017年7月に、子どもたちの海離れを示す調査結果を発表しました。
40代以上では「海にとても親しみを感じる」が多数でしたが、10~20代では逆に否定的回答が多数に上り、10代の3人に1人は「海に接していても心地よくない」と答えていました。
この記事を見たときに、私も同様の感覚がありました。「子どもたちは最近、海に来なくなったなぁ~」と肌で感じていたのです。
私は幼いころから海に行き、その良さも怖さも体験していました。
小さいときに遊んでいたことが、今、海が好きになった大きな要因だと思っております。なので、この子どもたちの海離れを深刻な状況だと実感したのです。
今回のtvkでの特撮TV番組「海洋戦士シーセーバー」を放送することを決めたのは、そういう想いからです。
そこには、「こどもたちに海に来てもらいたい」という願いがあります。
――子どもたちは正義の味方や特撮に憧れますから、かなり反響があるのでは。
古澤さん 私は、本心では大人たちが出したゴミを子どもたちが拾う必要はないと思い、なるべく遊んでほしいのです。
しかし楽しくゴミを拾ってくれればうれしいです。その楽しさの一つとして、正義のヒーローたちが駆けつけてくれれば喜ぶでしょう。
4月からの放送により、「シーセーバー」の知名度が広がれば、海に親しみをもってもらうきっかけとなり、ゴミ拾いも楽しいイベントとなることを期待しています。
現役のお相撲さんと子どもたちとのふれあい
――「どすこいビーチクリーン」というイベントもすばらしいですね。
古澤さん 子どもたちが現役のお相撲さんと相撲を取ることは、コロナ禍以降、残念なことに中止が続いております。
これまでは、
上記の部屋にご協力いただき、全国のビーチで実施していました。
2019年は江の島を拠点として、片瀬東浜で4部屋合同のイベントを行いました。
これは最高のイベントです。現役のお相撲さんである「阿武咲」「阿炎関」「王鵬」といった活躍されている方が来てくれたのです。
ゴミ拾いが終わった後、キレイにした砂浜で相撲を取ります。子どもは現役のお相撲さんと相撲を取ることは一生の思い出になるでしょう。
「釘のない海の家」プロジェクトを実現
――「釘のない海の家」の活動についてお伺いしたいです。
古澤さん 昔、ゴミ拾いをしているなかで、釘がたくさん落ちていることが気になりました。たまに直角に立っている釘もありました。
夏の間に砂浜に設置される海の家には、建てるために多くの釘が使われています。
撤去の際、釘を落としたまま放置すると、砂浜に釘が残ってしまい、裸足で走り回りにくい危険な砂浜になるのです。
そこで以前、誰が一番釘を拾うかのゲームを実施し、優勝者にはいかの塩辛をプレゼントするゴミ拾いを頻繁におこなっていました。
子どもたちが遊ぶ海に、釘だけではなく注射器も。私は、地元の地方自治体に危険だと抗議したこともあります。
しかしその怒りは、結果につながりにくいと分かってきました。その後、釘を使わない「海の家」を建設すればいいのだと、発想を転換。
そもそも釘のない時代でもお寺や神社は建築され、ログハウス方式の住宅もあります。必ず回答はあるはずと確信していたのです。
そこで「釘の無い海の家プロジェクト」を立ち上げ、㈱長谷萬(東京都・江東区)が参加され、実際に工事を行いました。
この海の家は、慶応義塾大学の小林博人教授にもお力を借りて、釘を一切使用せず、合板だけで組み立てる手法を用いて海の家の工事を行い、完成しています。
海の日にもイベントで海に関心を持ってもらう試みも
――イベントが盛りだくさんですが、「ACTION海の日ブルーサンタ!」も興味深いですね。
古澤さん 私は「海の日」が大好きです。学生時代は、海の日の前日から友人と徹夜で飲み交わしていました。
7月19日の夜には防波堤に集まり、20日に切り替わる瞬間、乾杯し朝まで飲んでいたのです。
「海さくら」をはじめてから、日本人が一番海に関心を寄せる日が海の日であると改めて思いました。
海の日は、海の恵みに感謝しつつ、島国である日本が海とともに繁栄することを願う日として制定。日にちは7月20日から、7月の第3月曜日と変わっています。※
※海の日の日付移動・・・制定当初は7月20日。平成13年の祝日法の改正により、平成15年から7月の第3月曜日に移動しました。
関心が高い海の日にイベントを行えば、もっと人がワクワクできるのではないだろうかと考えました。
赤いサンタクロースは、クリスマスに白い袋から子どもたちにプレゼントを渡します。
「ACTION海の日ブルーサンタ!」の青いサンタクロースは、白いゴミ袋にゴミを入れ、未来の子どもたちに素敵な海を残す、というアイディアから生まれました。
2015年から実施しており、大人気なイベントとなっております。
海底に森を創る活動も
――活動にもう一つ柱を立てたとうかがっていますが、その内容は。
古澤さん 7年前から「海底に森を創る」活動も進めています。この森とは、アマモ、ワカメ、サンゴなどをイメージしてほしいです。
今は江の島の海底には、森がないので元に戻るようにしなければなりません。7年やっていますが、こちらの活動は簡単ではないのです。
ほかの団体が、同じ神奈川県の金沢八景でアマモを再生することに成功されて、生物も戻ってきています。
江の島でのゴミ拾いの活動は継続しつつも、海底に森を創らなければ、タツノオトシゴは戻ってきません。私たちは両輪で頑張っていきたいと考えています。
NPO法人 海さくら
楽しみながら環境問題を考える美化活動および、環境に関する教育・啓発イベント制作事業
〒152-0022 東京都目黒区柿の木坂1-23-14